呉大学社会情報学部紀要 社会情報学研究

地域の情報政策――その歴史と課題、展望。岡山情報ハイウエイと他地域を比較して
                               
中北 宏八、呉大学社会情報学部


1. はじめに

 「地域情報化」の必要性が語られ出してから久しい。ここ20年ほど、自治体行政のキャッチフレーズは、国際化と共に情報化が柱になってきた。最近ではこれに高齢化、少子化対策などが加わっているが、情報化は相変わらず重要なテーマである。だが、地域情報化の歴史は失敗の歴史である。キャプテン、ケーブルテレビ(CATV)など、バラ色の夢を描いて始められた事業の多くは挫折したり、いまだに赤字を抱えて苦難の道を歩んでいる。技術の発達に過度の期待を抱いたり、業界育成の口車とは裏腹のがんじがらめの規制にしばられたのが大きな原因だが、どうして地域情報化が必要なのかという意義は、これまであまり検討されてこなかったのではなかろうか。

そこで、その意義を考えながら各種の「地域情報化」の足取りをたどり、最近の「インターネット革命」の現実化によって見えてきた将来像を展望する。具体的には「情報化先進県」とされる岡山県の「岡山情報ハイウェイ」や高知県、岐阜県との比較、これらとは一歩遅れた広島県の情報化への取り組み、情報公開と情報化政策との関連などを中心に、有意義な地域情報化の達成には何が重要かを論じたい。

2.1980年代の地域情報化

3.1990年代には地域の主体性重視へ

4.地域の側の条件

5.「インターネット革命」で一変

6.各地の取り組み方

7.情報公開への結び付けを

 
8.おわりに

 99年7月12日に東京であった「次世代インターネットがもたらす新しい経済社会」というシンポジウム(21世紀情報化政策研究会、世界情報通信サミット推進フォーラム共済)で、米国政府のデジタル化政策をリードしてきた元米大統領府特別補佐官のマイケル・ネルソン(Michael R.Nelson)・現米IBMインターネットテクノロジー担当ディレクターは、18世紀の英国兵士の歌の「We won't know where we're going 'til we're there ( 我々はそこに行き着くまで、どこへ向かっているのかを知らない)」という歌詞をあげて、現在進行中の情報革命の進展ぶりを話した。銃を撃つのは、普通はready(用意)、aim(目標)、fire(発射)の手順を踏むが、インターネットの世界は今やaimを定める余裕もなく走っている。ところが日本はaim, aim,aimばかりだ、と皮肉った。

 同じ席で通産省の安延申・機械情報産業局電子政策課長は「次世代インターネットと電子商取引の時代に政府に求められる役割」と題して話し、▽政府は、情報技術(IT=Information Technology)の最大の需要家なので、社会・ビジネスの電子商取引利用に先導的役割を果たすべきだ(電子政府の実現)

 ▽現実の様々な経済・社会制度は、「実世界」における人々の活動を前提に構築されたものだが、サイバー社会では、それに合った新しいルール作りが重要になり、政府は各種の規制緩和などで役割を果さなければならない

 ▽米国の次世代インターネット(NGI=Next Generation Internet)、日本のギガビットネットワーク、教育インターネットのように、多くの人々・企業が利用できるインフラストラクチャー(テストベッド)の提供

 ▽公共財的性格を有する基盤技術開発や標準の形成、などを挙げた。これは地方政府にとっても同じだと言えよう。

 日本の地域情報化政策は失敗の連続だったが、「インターネット革命」の到来によって、情報技術がようやく一般の人々にも使えるものになりつつある。地方自治体にとっても、岐阜県ほどの大胆な踏み込み方をするかどうかはともかく、賢明な政策を選択し、それを実行する役割が求められている。政府の支援策も、これまでのような全国一律の水準引き上げを重視したものから、自らの努力で事業を展開する地域への支援を厚くする、という方向へ変わってきている。
地域の情報環境をどれだけ魅力あるものにし、地域の発展に結び付けるか、地方自治体の首長や情報政策担当者の、知恵と実行力が本当に試される時代を迎えたといえよう。


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