◎特集

橋下徹氏が やりたかったこと すでにやったこと やろうとしていること

           

 この特集では、今年登場した橋下徹知事の行動をチェックする。

 今後も継続評価したいが、今の時点での取材の結果である。

 

第1章 知事になりたかった(やりたかったこと)

 当初は自民、公明も推薦見送りの動きがあったが何とか支持を得た。
 知事になるための公約は次のように、当選後とは全く違うものであった。

 産経新聞(二〇〇八年一月八日朝刊)より抜粋―「働く世代の生活費安い街に」と題する発言

 今回の争点は何か

 行政が経済規模を大きくしたり、所得を上げたりはできない。所得を上げるのではなく、使えるお金、可処分所得を増やすことだ。これは行政として簡単なことで、固定経費にあたる生活費を税で補填(ほてん)してあげればいい。そうすれば、総収入を増やさずとも使えるお金が増える。

 まず考えるべきは、就業者層、特に子育て世代のこと。一番お金に困っているけど、未来を担う子供を持ってい
て、バリバリ働いている世代だ。その固定経費を抑え、使えるお金を増やすことで企業も活性化させる。

 私は「子供が笑う」を掲げているが、今から子供を産もうとする人は、可処分所得が三割ぐらい増えるはずだ。

 大阪は、就業者層の固定経費が安い街ということを他府県にアピールし、人を、企業を呼び込む。就業者層がものすごく働きやすい、元気な、まちづくりを目指す。だからといって高齢者や福祉を切り捨てるわけではない。

 厳しい財政状況でやりたいことができるか

 自分の重点施策にかかる費用は一一〇億円。府の三兆円の予算の中で、一般施策として使えるものは四五〇〇億から五〇〇〇億円ぐらいだが、きちっと見れば相当なことができる。それを今までやってこなかった。私がざっとチェックしただけでも、一〇〇億円ぐらいのワケがわからない事業がある。それを徹底的に見直す。

 出資法人についても、年間委託料や補助料五〇〇億円が流れ、公の施設も二八施設で年間三〇億円の赤字。これも徹底的に見直す。民間の目で見直せば、お金は浮く。

(途中略)

大阪府は全国学力テストで小、中とも四五位だったが、学力問題には

 まったく悲観していない。何をそんなに大騒ぎするのか。OECD(経済協力開発機構)の実施した学力調査テストで日本は下がったと言われているが、五十数カ国の中で六位。何で不満があるのか。今の公教育で、社会の構成要素となるための基礎学力は達している。ただ、大学入試という視点でとらえれば公教育では不十分だろうが、これ以上、英数国理社を詰め込む必要はない。(途中略)
 勉強、スポーツ、芸術などそれぞれの分野の学校が増えて多様化し、子供たちが大学受験だけでなく、いろんな進路を選べるような大阪にしたい。別に四五位でも構わない。その中から突出した子供がどんどん出ればいい。

選挙広報『おおさか』を笑顔にするプラン〜人と笑顔に投資する大阪府を目指して〜

〈17の重点事業〉

1)「(仮称)出産・子育てアドバイザー制度」を創設します。
2)小児科・ 産科の救急受け入れを促進します。
3)妊婦一般健康診査の受診回数を拡大します。
4)乳幼児医療費助成を拡充します。
5)不妊治療費補助を拡充します。
6)駅前・駅中に保育施設の整備を促進します。
7)子どものいる若い夫婦への家賃補助制度を創設します。
8)障がい者や高齢者への公共公益活動を支援します。
9)大阪府内の公立小学校などの運動場を芝生化します。
10)大阪府内の全公立中学校に給食の導入を促進します。
11)安全な地域づくりをめざして防犯カメラの設置を支援します。
12)大阪府内で冬季イルミネーション・イベントを実施します。
13)「石畳と淡い街灯」の街をつくります。
14)中小企業活性化のため大規模コンベンションを開催します。
15)大阪の活力アップのために知事による積極的なセールスを展開します。
16)セーフティネットを除き大阪府が出資する法人を抜本的に改革します。
17)府立施設や府の事業で必要性のないものは民営化・売却を促進します。

第2章 知事として(やったこと)

 大阪府を破産会社と同列視し、自らを破産管財人などという極端で誤ったイメージで、前記発言や公約と全く異なる政策を、タレントとしての人気に依拠し、強行に展開。

 自民公明のほか早くも民主も予算賛成(七月)。

 衆参ねじれ現象を国政の沈滞と見る経済界などにとっては橋下路線は格好のモデルケース(支持率を保ったままの福祉医療教育文化予算削減)。

第3章 公約と異なる維新プログラム(やろうとしていること)

 今年度の1100億円削減案は、とりあえず「出血」を止めるためとしているが、その削減の大部分は府民の暮らしと府職員の人件費に関わる部分であり、手がつけやすい、弱い者へ犠牲を強いるものとなっている。莫大な借金の主要因の一つである大規模開発への切り込みもほとんど見られない。過去の放漫財政運営を行ってきた歴代知事や議会に対しても具体的責任追及はなされていない。

第4章 府民はずっと指示するのか

 府を廃止し関西州設立に力を注ぐという。

 府民が知事のやり方を見抜けば、タレントに戻る可能性と、国政に進出する可能性の二つが考えられる。
橋下知事の延命は、大阪府民の眼力に規定されるだろう。以下に

 取材1 大阪府立国際児童文学館廃止により我々は何を失うのか
 取材2  人形劇団クラルテ代表 高平和子さんに聞く
 取材3  大阪教職員組合に聞く
 森裕之氏による府政改革批判


を掲載する。

 

取材1 大阪府立国際児童文学館廃止により我々は何を失うのか—
          大阪の歴史と文化論の立場から

児童文学館外観

大阪府立国際児童文学館の設立と四半世紀の運営

 一九七九年に大阪府は、早稲田大学教育学部教授(当時)の鳥越信氏の所蔵する一二万点の児童書を中心とする本の寄贈先公開募集にエントリーし、選ばれ、大阪府立国際児童文学館構想を具体化した。一九八〇年にその管理運営の受託に関する事業を目的にした財団法人大阪国際児童文学館を一千万円の全額出資で設立し、準備を重ね、文学館は一九八四年の五月五日のこどもの日に吹田市の万博記念公園内に開館した。

 財政的には大阪府からの事業委託費によってまかなわれ、人的には財団の理事等に大阪府職員が一定数入るほか、財団職員にも府職員の派遣があり(現在財団の正職員は一〇人で、総務部門に府からの三人、研究職四人、司書職三人。その他非常勤職員)、土地は独立行政法人日本万国博覧会記念機構(旧財団法人日本万国博覧会記念協会)からの借地、建物は大阪府所有の公の施設である。

 そして児童文学館は開館後、国内外の児童書を収集し現在では七〇万点を越え、調査研究機能をともなう本格的な児
童文学館として、日本最大、世界に冠たる存在となり、国内外の評価は高い。一九八六年から九〇年まで財団の二代目理事長をつとめた司馬遼太郎は「街道をゆく 35 オランダ紀行」朝日文芸文庫二一九頁以下で、連載を書く段で「さまよえるオランダ人」、「フランダースの犬」について、児童文学館の研究員からの深い教示を紹介し、児童文学館の力を讃えている。ちなみに初代理事長は桑原武夫京大名誉教授、現在の松居直氏は福音館書店相談役で五代目である。

大阪府立国際児童文学館の実質

土居安子主任専門員に隅々まで案内を受けた。印象深い点を摘記する。

〈専門職員がすべて目を通し、保存と開架〉

 購入、寄贈本に専門の職員が必ず目を通し、その中から子どもたちに読んで欲しい二万五千冊くらいを開架式のこども室に置いている。これは貸し出しされる(それ以外の数十万点の本は貸し出さない)。こども室にはお話しコーナー、マンガコーナーもある。
 また、こども室には「ほんナビきっず」がある。富士通、筑波大と協力して開発した子ども向け図書検索システムで、検索方法としてタイトルや著者名だけでなく、ゲームをしながら画面をたどることでその子に合ったおすすめ本を紹介したり、「びっくり」、「悲しい」、「こわい」、「うれしい」など、子どもの読後感で本が検索しやすいように工夫している。これらに活用されているキーワードやあらすじは専門職員が実際に読んで分類・付与したもので、子どもと本をつなぐ画期的検索システムと言えよう。

児童文学館館内

〈児童文学館のしていること〉

 国会図書館にもない本を求めて児童文学館に来る人が多い。書庫の中の、貴重書庫(図書、雑誌)は、湿度と温度を一定に保っている。明治期からの絵本、欧米の影響と独自性がよくわかる蔵書となっている。出版された年月日順に分類し、閲覧に供している。ここにしかない「日本一ノ画噺」全巻など明治以後戦前までの図書と雑誌を収蔵している。明治期の本をたどると、文語調から口語体への移り変わり、本デザインの歴史、講談から本への移行、豊富な翻訳児童書も目を引く。
 一般書庫には、海外の児童書もよく揃っている(英語が三分の一、その他が三 分の二)。また、マンガや街頭紙芝居等の資料も充実している。
 どのような文化にあっても、歴史を知ることは現代ひいては未来を見つめることである。よりよい子どもの本を考えるためには、歴史を学ぶことが重要であり、児童文学館は子どもの本の歴史の宝庫である。
 展示コーナーの企画は特別研究員と呼ばれる外部の研究者に、児童文学館の資料を使って研究してもらい、その成果を発表してもらう制度によって実現しているものであり、広いネットワークが館の運営を支えていることがわかる。研究機関でもあるから研究成果を紀要に発表し、シンポジウムなども開いている。
 毎年増える児童書の六〇%は出版社や個人からの寄贈による。

橋下知事が打ち出した方針

 二〇〇八年六月に公表された同知事の「大阪維新」プログラム案(財政再建プログラム案)によると、児童文学館は二〇〇九年度中に東大阪の府立中央図書館に移転し、施設は撤去もしくは利用について検討、前述の財団への委託は廃止し、府の職員は引き上げるとしている。府からの年間支出一億七千四百万円をカットすることになる。児童文学館が収集した資料の管理はできるし、中央図書館で府民に提供でき、おはなし会や読書相談も提供可能としている。
 児童文学館のことを知らない人にとっては、大阪府の財政再建のためにはやむを得ないのかなと思ってしまうところがこの案の困ったところである。
 借地上の建物の処理は、解体すると一億円かかる。
 万博記念機構への借地料は年間二千万円である。

大阪府立国際児童文学館廃止により失われるもの

 北田彰財団常務理事への取材を通じ明確になった点は次の通り。

 図書館にはない保存・研究機能が消滅

 児童文学館には二つの機能がある。

〈そのひとつは児童文学等児童文化の総合資料センターとしての機能〉

 七十万点の児童書等をもち、毎年一万五千点くらいを増やしている。
 資料の収集・整理・保存方法が図書館とは全く違う。
 収集方法として、図書館は本を選ぶが、児童文学館は選ばない。日本で発行された児童書のすべてを集め保存する。そのうち六割は出版社、個人から寄贈を受ける。
 整理・保存方法として、図書館は本を貸すが、児童文学館はこども室の二万五千点以外は貸さない。それと同じ本は保存のなかにもあるから、保存するものと貸すものとは明確に分けている。
 図書館は本を「選ぶ、買う、貸すシステム」、児童文学館は「選ばない、寄贈、貸さない、保存するシステム」。
 この機能が失われることは、児童文学館の有する図書館にはない機能の消滅であり、歴史的損失であろう。

〈もう一つはこどもの読書活動支援センターとしての機能〉

 専門職員がこれまでに培って来たネットワークで、こどもと本をどのようにつなぐかの研究をしている。図書館には研究職はいない。

 児童文学館が府民と直接つながるのは、赤ちゃん絵本リーフレット。これは若い父母にどんな絵本が赤ちゃんにいいかをアドバイスするもので、児童文学館の専門職員、小児科医、児童心理学者などが協力してつくり、保健センターの四ヶ月児健診のときにすべての府域の保護者に渡してもらうシステム。
 前述の「ほんナビきっず」。専門職員と企業の共同研究の成果である。
 児童文学館は全国の市町村図書館、学校図書館、ボランティアグループへの支援をしている。
 児童文学館では、最近一年間に出版された子どもの本を「新刊コーナー」に展示するとともに、毎年、紹介と解説を行っている。これは専門職員がほぼすべての児童書を読み、評価し、キーワードとあらすじをコンピュータに入力したものを活かした講座である。図書館員、学校の先生、読書活動のボランティアさんなどが年間購入する本を決める参考にしている。
 ボランティアグループのお話会での経験をデータベース化する活動もおこなっている。

児童文学館収蔵品児童文学館資料

児童文学館資料

本だけの凍結保存になってしまう

危惧することの一つに資料収集の継続が挙げられる。資料は集め続けることで活かすことのできるものであり、一度収
集が止まってしまえば、将来さかのぼって収集することは不可能になってしまう。

その他の現実的損失

〈出版社等からの寄贈が受けられなくなる〉

年間一万五千点の本を増やしているが、その六割にあたる九千点は出版社からの寄贈。約二千万円に相当する。全国にある三千を越す図書館に出版社は寄贈できないので、児童書で寄贈を受けているのは児童文学館だけ。価値づけしない、永久保存するということが評価された結果だと思われる。

〈外部資金が導入できなくなる〉

二〇〇七年度で言えば、府立図書館になると受けられない資金は次のようなものである。
外部補助金として、子どもゆめ基金約一千万円、万博記念機構助成金約百万円、企業協賛金・賛助金として、「アジアと日本の絵本」の企画のための在阪企業一一社から賛助金約一五〇万円、ゴーン改革でも残った「ニッサン童話と絵本のグランプリ」の開催費用。このグランプリは童話と絵本文化を広げる新人作家の登竜門といわれている。

団体寄付金として、児童文学館と共同で世界の研究者を顕彰する国際グリム賞のための金蘭会からの寄付金百万円、アジア地域を中心とした海外の絵本購入のための大阪キワニスクラブからの寄付金五〇万円、加えて富士通は共同研究費として、「ほんナビきっず」の制作費を負担している。
他の年度では、科学研究費補助金として文科省や日本財団からの助成があった。

これらが約七千万円、前述の寄贈本代二千万円と合わせると九千万程度になる。つまり、大阪府の負担する約二億円で約一・五倍の事業効果を生み出していると考えることができる。

大阪文化論の立場から

本誌は大阪の歴史を夙に研究し、主筆においてそのまとめを大学の研究会の紀要に発表したこともある(経済科学通信一〇四号、二〇〇四年)。
古代から今日までの大阪を鳥瞰し得られた現代大阪の現状は次のようなものであった。

〈大工業化の進展と失敗、情報化社会での大阪の遅れ〉

戦後約六〇年の大阪の歴史、制度的にハンディを負い徐々に地盤沈下していく大阪が選択した道は、臨海地域を埋め立てての重厚長大型産業の誘致・奨励、これに伴う道路等の都市基盤整備であった。その効果は大阪経済に一定の活気をもたらしたが、公害問題を先頭とする大都市問題を一層発生させ、産業のソフト化を遅らせ、大都市を国民のものにするという視点からは成功をおさめなかった。一九七〇年代から八〇年代にかけての大阪を含む革新自治体の隆盛は、大都市問題の噴出への国民の緊急避難としての意味を持ち、この面で大きな成果を挙げたが、それ以上のものにはならなかった。産業構造の変化には適用できなかった。その後、国際的・国内的政治状況は保守化を選択した。

現代社会における都市や地方の力はソフト化、情報化への適応度という視点から見ることもできるが、関西企業のIT化進展度をみると、関東に次いで第二位の偏差値となっているものの、その水準は関東と比べて低く、情報化の遅れが目立つと言われる(大阪府立産業開発研究所)。二番目ながら一番とは巨大な差というところに大阪のすべての特徴がある。差は開くばかりである。

〈比較でなく独自性の必要〉

歴史は大阪の人々の誇り高い心情に多かれ少なかれ影響をもたらしている。その心情はいつも江戸・東京を見据えている。しかし、所詮比較からは何も生まれない。自然・風土・地理的・制度的条件にかなりの程度規定されながら、自らを発展させる営みが続くだけである。歴史の煌めきと、それを支えた勤労者、農民の自主的営みを引継いでいくのは誰か、何かが問われているのである。

大阪は歴史力をもっている。しかし戦後は不調である。そしてなお大阪を再生させる方途も人物も現れていないと言うべきである。大阪の都市格、グレードは高いとは言えない。

このような中にあって、大阪府立国際児童文学館の存在は、現代大阪における例外的独自性の輝きであると考える。

本稿で述べてきたこの文学館を、このような大阪の歴史、文化論の立場からも、維持するのか発展させるのか、それとも消滅させるのかが、大阪府民に問われている。心ある全国の目が、国際的な目がこの動きを注目している。

※  ※  ※

橋下知事は、文学館の利用状態をビデオで隠し撮りしていた。私設秘書にやらせたというから唖然とする暗さがある。
つぶれた独裁国家の秘密警察の趣である。弁護士を中心に責任追及の声が上がり、関経連の下妻博会長は「大人のやることじゃない」と苦言を呈した。府議会で追及されたが、「謝罪しない」と居直っている(二〇〇八年九月二七日朝刊各紙)。

 

取材2 子どもって未来じゃないですか

       人形劇団クラルテ代表 高平和子さんに聞く

高平和子

たかひら・かずこ
人形劇俳優。1953年札幌市生まれ。小学校5年
よりアマチュアにて人形劇を始める。1961年、
人形劇団クラルテ入団。2006年、劇団代表と
なり人形劇普及と創造のため奮闘中。

子どもたちがナマの人形劇を含む演劇に触れる機会がずっと減って来ている。それへの行政の援助が減って来ている。橋下知事の施策はその仕上げです。

橋下知事のやり方が私たちの活動との関係で問題なのは、「文化関連事業」の重点化という名の切り捨てという直接面よりも、市町村への補助金、私学助成のカットにより、結果として学校、幼稚園での行事としての上演の機会が減らされたり回数が減らされたりすることが大きいです。観たことがない先生が増えていくと、先生が児童・生徒に観せようとは思わないです。

子どもにとっては観劇は、食べることと同じくらい重要です。感動はナマから届きます。バーチャルなもの、メカニックなものより、ナマは子どもたちが自分で選ぶ力を身につけるようになります。未来は子どもたちの中にあるのに、どうしてこんな予算を削るのでしょう。

今年、劇団六〇周年公演を手塚治虫さんの「火の鳥」で取り組み、大阪市内六〇箇所をまわりました。子どもがちゃんと生きていける未来を考える作品で、演じた私たちが力をもらいました。六〇〇〇通の感想文をつなげて大きな鯉のぼりを作り、五月五日に飾りました。

国際児童文学館、府立青少年会館、ワッハ上方、ドーンセンターの廃止方針には納得いきません。児童書のメッカや舞台人の公演場所がなくなるのは由々しいことです。

ヨーロッパでは子どもたちは九九・九%ナマの芝居を観る環境が行政の補助により整えられていることを思い起こすべきでしょう。各地に市立の劇団、市立の劇場があって、子どもと親とは極めて低廉な価格でナマの芝居が観れる。ベルリンなどでは地下鉄代も込みで五百円くらいで観劇できる。教育にはお金をかけて当たり前なんです。ミュンヘンにならって札幌市にはこどもの劇場やまびこ座、こども人形劇場こぐま座があり、おおきな役割を果たしています。土日に三〇〇円くらいで観れる。杉並区は文化のための各家庭補助を出しがんばってますね。

大阪では劇団は財政逼迫してたいへんです。よくがんばってるなあと自分で思うくらいです。やめていく仲間もいるし、ホール使用料が上がるので入場料を上げると観客が減っていく。お母さんたちは千円くらいまでなら子どもと行けるけど、三千円となるととても無理と言われます。私はそんな時こそいい作品を上演しようと思います。

文化人の中には、橋下知事に反対しているだけではあかんと言い始めている人もいますけど、私たちは子どもの代弁者のつもりです。

劇団クラルテ:一九四八年、戦後の大阪の焼け跡から生まれる。クラルテとはフランス語で「光」「光明」という意味。フランスでアンリ・バルビュスやロマン・ローランが起こした平和運動「クラルテ運動」から名付けた。人形劇専門劇団として上演、講習、人形製作。全国規模で子どもから大人まで楽しめる上演活動を展開している。
主な作品に近松門左衛門作「女殺油地獄」、シェークスピアやブレヒト作品、宮沢賢治作「セロ弾きのゴーシュ」など。二〇〇八年創立六〇周年記念公演「火の鳥」上演、「大阪市内六〇カ所公演」。

 

取材3 府職員人件費カットが意味すること〜府民生活切り捨てへの突破口

       大阪教職員組合書記次長 田中康寛さんに聞く

七月二三日、府議会本会議は二〇〇八年度予算案を一部修正し、自民・公明・民主の賛成で可決した。

成立した予算は、府民施策切り捨て、人件費を削減する一方で、大型開発・同和事業を継続するなど府職員、府民要求と真の財政再建に背を向けたものとなっている。

人件費問題では、

1) 〇・五%圧縮修正したものの、一般職で三・五%〜九・五%と異常な賃金削減
2) 一般職五%と全国に例を見ない退職手当の削減
3) 府立学校教務事務補助員ら三五〇人の解雇
4) 労使交渉でなく議会で人件費削減を決定するという地方公務員の賃金決定ルール違反
5) 慎重対応を求めた府人事委員会の府議会に対する意見に反する

などの点から、到底受け入れられるものでなく、撤回に向けての取り組みに全力をあげる。

職員の間には「府財政の赤字は野放図な大型開発などが原因なのに、なぜ職員に責任転嫁するのか」「今の時期の職員だけに退職手当も含めて見せしめ的にやられるのは納得いかない」と不満が充満している。一方、世論調査などでは府民の圧倒的多数が人件費削減に賛成している。「大阪府は民間会社なら倒産会社」との偽りを主張し、巧みな世論誘導で職員と府民の分断が図られ、次は府民に犠牲を押し付けてくるのは明らかだ。

「教育日本一」をめざすというが実態は「教育切り捨て日本一」

知事は公立教育の充実、強化を重点政策として宣伝し、「教育日本一」を目指すとしているが、その中身は全く逆で
「教育切り捨て日本一」というべきだ。

特に配慮したとされる「障がい者」や「いのち」に関する予算では通学バス(一八〇〇万円)、泊行事への看護師付添(三〇〇万円)の増額はあるものの「支援教育充実」予算は軒並み削減、予算全体で五億六八〇〇万円の大幅削減となっている。

「いじめ・不登校・問題行動対策」でも、充実を強調しながら実際は二億一一〇〇万円の削減、「公立中学校へのスクールランチの導入」は二〇〇万円を予算措置したが、「学校給食の振興」予算は全体で三二七三万円削減、緑化推進に資するとして「小学校運動場の芝生化」に一〇〇〇万円予算措置の一方で、環境農林部の緑化関連予算は三億七〇〇〇万円以上も削減と実際には縮小、切り捨てを進めながら、充実・強化を主張する偽りの宣伝を行っている。

私学助成についても、府民レベルの猛反対の前にわずかな修正は行ったが、大幅削減の本質は何ら変わっていない。

教育内容では、できる子、できない子で差をつける選別と切り捨ての教育を進める習熟度別指導を小学三年からと中学全学年に導入、府立高校八校の学区を撤廃など、「勝ち組」のための、一部の子どもだけに笑顔を保障する「格差社会を拡大する教育」を推し進めようとしている。「高校の土曜補習」「小・中学校への放課後学習」も同様の狙いで、「つまずき対策」には目を向けようとしない。すべての子どもへの教育保障が解体されようとしている。

教員の出張旅費を二〇%カット、宿泊を伴う場合の日当や食費がカットされるためすべての教職員に持ち出しが強要される。修学旅行など生徒を引率する場合、二四時間全てが仕事の時間であり、仕事をしながら自己負担するのは納得いかないとの声もある。

こうした教育切り捨てに対し、危機意識が広がり、教職員・PTA・地域が一体となった運動が出て来ている。PT試案(二〇〇八年四月発表の「財政再建プログラム試案」)で三五人学級の廃止が出されたが、一、二年で実施した三五人学級は小学校長会の八〜九割がやって良かったと評価し、三、四年にも広げていきたいとの要求だった。府PTA協議会が進めた「三五人学級等署名」は三週間余りで一〇五万筆を集約した。この運動には私たちも連合の教職員組合とも共同して支援した。知事側はこの声を無視できず、三五人学級は存続した。私学助成削減反対運動では高校生自らも立ち上がり、大きな共感を呼んだ。


財政再建の目的は何か

財政再建を理由に、強引ともいえる人件費削減や府民生活施策を削減していく背景にあるものは何か。そのことを明らかにし、府民の間に理解を広めていくことが重要だと考える。

財政再建の目的は、府民のことを考えているのではなく、借金のない身軽な大阪府になって、一日も早く道州制に移行
したい、大阪をなくして関西州にして、財界が思い通りに操れる行政にして行きたいとする財界の意図に応えるためではないのか。そのことを知事は公然と語りはじめている。知事は府民の期待とは正反対の「大阪府つぶし」をすすめようとしている。

強引な分だけ、矛盾も広がっており、私たちは維新プログラムの撤回を求め文化や教育を守ろうとする府民との共同の
運動を広げていくことに全力をあげたい。

 

橋下府政の財政改革を批判する

       立命館大学准教授 森 裕之

森裕之

もり・ひろゆき

高知大学、大阪教育大学を経て、2003年から立命館大学政策科学部助教授(現在准教授)。
著書に、「公共事業改革論」、共著「Q&A地方財政構造改革とはなにか」、論文「市町村合併と公共サービス」、「公共事業改革と社会・経済システムの転換」、「税財政改革の動向と課題」など多数。


 

橋下府政の「財政再建プログラム案」

「大阪府は、府債を返済するための基金からの借入れや通常よりも多い府債の借換えにより、財政再建団体への転落を防いできました。しかし、こうした手法は、負担の先延ばしでしかありません。これらの手法と決別しなければ真の再建はできません。このため、『財政非常事態』を宣言し、全ての事業、出資法人及
び公の施設をゼロベースで見直します」

これは、橋下徹氏が大阪府知事への就任直後に発した「財政非常事態宣言」である。要するに、通常返済するべき府債(借金)を先延ばしする財政のやり繰りは今後行わないかわりに、歳出をゼロベースで評価して大きく切り込んでいこうというのである。

大阪府にかぎらず、府県の自治体財政はいずれも苦しい状況におかれている。とくに大阪府では一九九〇年代末から幾度となく財政計画が策定されてきているが、依然として財政構造は硬直的なままである。その意味では、橋下府政の「財政非常事態宣言」の文言自体は否定されるべきものではない。問題はその中身である。

「財政非常事態宣言」を具体的な内容に落とし込んだものが「財政再建プログラム案」である。これは、二〇〇八年六
月に出された「『大阪維新』プログラム(案)」の「3つのミッション」の一つである。これは、他のミッションである「政策創造(重点政策案)」と「府庁改革」の上位計画といってよく、橋下府政にとって最大の課題である。

「財政再建プログラム案」は、二〇〇八年度だけでみても一般財源ベース(府税や地方交付税等)で総額一一〇〇億円もの財政改革(一般施策経費▲二四五億円、建設事業▲七五億円、人件費▲三四五億円、歳入の確保+四三五億円)を行おうとするものである。そして二〇〇九年度と二〇一〇年度においても、それぞれ九〇〇億円規模の歳出削減を行うという計画である。このような財政改革の内容については、二〇〇八年四月に出された大阪府改革プロジェクトチームによる「財政再建プログラム試案」でも示されていた。これらの改革目標額は、二〇〇七年六月に公布された地方財政健全化法で新たに財政再建制度に取り入れられた「早期健全化基準」(イエローカード)のうち、健全化指標の一つである実質公債費比率(標準財政規模に占める公債費の割合を示す指標)が同法の定めを超えないように設定されている。

橋下知事に対する高い支持率

このような大規模な財政削減により、府民生活へ様々な影響が生じるのは不可避である。事実、「試案」の段階でも私
学助成や4医療費公費負担助成事業(※注1)の大幅カットの方針が示され、府民や関係住民からの反対の声が拡がった。また、国際児童文学館や上方演芸資料館などの公の施設・出資法人の廃止の動きに対しても、専門家や府民から存続を求める声があがった。「財政再建プログラム案」は、「試案」段階における府民の声への対応や同和関連予算の復活などの「政治的判断」を踏まえた修正を通じて策定されたものであり、私学助成をはじめとする大幅な社会サービスのカットを伴う点については同じである。

しかし不思議なことに、マスコミによる府民アンケート調査などでは、橋下知事に対しては一貫して約八割もの高い支
持率が与えられている。七月二三日の大阪府議会で成立した予算では、自民党、公明党、さらには知事選挙で対立していた民主党までが賛成に回っている。さらには、かつて「改革派知事」とよばれた浅野史郎、北川正恭、橋本大二郎らによっても、橋下知事の行政手腕は高く評価されている(『週刊ダイヤモンド』二〇〇八年八月三〇日号)。一体なぜこれほどまでの支持が橋下知事に対して寄せられているのだろうか。

これが、「『大阪維新』プログラム(案)」が府民の負託に応えるだけの内容をもっていることを示唆しているとは考えられない。以下では、橋下府政の改革プランである「『大阪維新』プログラム(案)」の批判的検討を通じて、この点について答えたいと思う。

「財政再建プログラム案」の問題点


「『大阪維新』プログラム(案)」は「財政再建プログラム案」「政策創造(重点政策案)」「府庁改革」という「3つのミッション」をもっているが、府民生活との関係で重要なのは前の二つである。この二つのうち、前者は財政運営の大枠であるのに対して、後者は府財政によって創出しようとする大阪府の将来ビジョンを示すものだからである。

「財政再建プログラム案」の主な問題は次の二点である。

第一に、八年後の二〇一六年度に実質公債費比率が早期健全化基準を超えないようにするために、単年度で一一〇〇億円もの財政改革を拙速に進めようとしていることである。それは、二〇〇六年度に策定された「大阪府行財政改革プログラム(案)」が想定していた改革取組額が単年度で二八〇億円でしかなかったことからもうかがえる。しかも、そこでは二〇一〇年度に単年度黒字を実現したうえで、二〇一一年度までの計画期間中に府債残高および減債基金借入額(累計)をピークアウトさせることが計画されていたのである。にもかかわらず、なぜここまで急激に財政改革を進めようとしているのかが十分に説明されていない。

切り込むべき歳出部分が放置されたまま財政操作を行うことは「負担の先送り」であるが、府民生活を守るために減債基金の活用等を行うことは、自治体としての財政運営における裁量と評価できるものであり、両者を混同することは非常に危険である。たとえ早期健全化基準をクリアすることが必要だとしても、丁寧な議論を進めていく時間は十分にある。

第二に、具体的な歳出削減の内容をみれば、教育や福祉などの社会サービスの削減が大きい一方で、大阪府の財政危機を招いた大型プロジェクトについては存続させるという、本来あるべき財政削減の方向性とは相容れないものとなっていることである。府民からの反対が強かったにもかかわらず、私学助成の経常費助成は二〇〇八年度からすでに引き下げられ、私学助成の授業料軽減助成は二〇〇九年度入学生から補助の廃止・縮減が進められることになった。これにより、私立学校の授業料の引き上げと家計負担の増加によって、学びの場を失う生徒が出
てくる懸念が大きい。また、4医療費公費負担助成事業については二〇〇九年度から補助の削減が進められようとしている。

これらの社会サービスに対して、ニュータウン建設、道路、ダムなどの主要プロジェクトは「事業時期を精査」「コス
ト縮減に努めつつ事業を実施」「事業継続は妥当と判断」「需要と採算性を見極めていく」など、これまでと何ら変わらない理由で推進されることになった。これらの大型プロジェクトについては、「試案」において過去の失敗の総括(端的にいえば反省)が記されていたのであるが、「財政再建プログラム案」での主要プロジェクトの決定はそれらを反故にするものである。

重点政策案の二つの柱


「『大阪維新』プログラム(案)」ではじめて示された将来像(重点政策案)は、二つの柱からなっている。一つは、大阪の未来をつくる」(未来を担う世代に集中投資)、そしてもう一つは「大阪を輝かせる」(大阪を圧倒的に特徴づけるために集中投資)である。「大阪の未来をつくる」ための重点政策では、「子育て支援日本一」および「教育日本一(公立教育の充実・強化)」が掲げられている。

「子育て支援日本一」の中身としては、「子育て支援サービスの充実」や「安全・安心な保健医療体制づくり」(救急
医療体制の充実や産科・小児科医師の確保等)などである。「教育日本一(公立教育の充実・強化)」としては、「基礎学力の定着・向上」(少人数学級編制や習熟度別指導の充実等)や「日本一の公立高校づくり」などが示されている。

これらの問題は次のような点にある。

第一に、救急医療体制の充実や産科・小児科医師の確保などは、「重点政策」と銘打つ以前に全国的課題となっているものであり、いわばマイナスの状態を最低限のサービス水準にまで引き上げるという性格のものであって、大阪の将来像を示すという積極的な意味づけは薄い。むしろ、より積極的な医療システムの展開こそが重点政策にふさわしいものであろう。
第二に、教育強化については公立教育のみが念頭におかれていることである。
これは明らかに、「財政再建プログラム案」の財政削減の目玉である私学助成削減を意識したものに他ならない。大阪を「教育日本一」とするためには、府内高校生の四割、幼稚園児の四分の三を受け入れている私立学校との協働がなければならないのは明瞭である。この「重要政策」からあえて私学を除外しているのは、「財政再建プログラム案」に施策を従属
させていることを端的に示している。また、教育関係者の間でも是非をめぐって論争のある習熟度別指導や進学指導特色校などが十分な検証がなされないままに、「教育日本一」といったスローガンの下に掲げられていることも問題であろう。

第三に、「思いつき」的な施策が盛り込まれている。具体的には、公立小学校の運動場の芝生化や公立中学校へのスクールランチ(※注2)の導入がそれにあたる。はたして運動場の芝生化は費用対効果や住民ニーズに適ったものなのか、またスクールランチの導入の一つの理由として「保護者の負担軽減」を挙げているが、これは私学助成削減や乳幼児医療への公費負担助成事業の引き下げ見直しとの関係でいえば、一方で負担軽減、他方で負担強化というやり方をとっている点で整合性を欠いている。「大阪を輝かせる」における御堂筋や水の回廊の光による演出など、物理的にも本当に大阪を輝かせる施策も思いつき的発想といわれても仕方がない。

二〇〇八年度の本格予算では、これらの重点政策が予算化されると同時に、府債発行額の抑制が財政改革の成果として
前面に押し出されている。

無責任な言説としての「関西州」

橋下知事は「関西州」を事あるごとに口にしているが、筆者はここに現府政の無責任な体質を垣間みる。その理由は次
の二つである。

一つには、大阪府民に対して拙速で合理的とは思えない財政改革によるサービス削減を行う目的を「次の一手」のためだという一方で、大阪府の「発展的解消」を将来目標と言っている。道州制以外に地方が生きていく道はないというのであるが、一体どのような前提と論理でそんな結論が出てくるのかについては説明がなされていない。それを自治体のトップが強いアピール力のある口調で「関西州」といえば、それしかないと思い込む住民が出てくるのは自然である。これは非常に危険な政治的扇動と捉えられる。

そしてもう一つは、「関西州」の中心は大阪だという「驕り」である。都市自治体が圧倒的に多い大阪府はむしろ例外
であり、農山村地域がほとんどを占める他の府県の実態を踏まえた発言をすべきである。農山村地域における府県の役割は非常に大きく、「関西州」で大阪が中心になれば、周辺の府県に広がる農山村地域が衰微していくことは必至である。

では、なぜ橋下府政は支持されているのか。それは、劇場型政治を体現することで、貧困や社会の階層固定化を打破し、公金をむさぼる輩を正してくれるのではないかという期待を府民が抱いていることにあるといえる。

大阪府の財政改革によって、医療費助成の削減など、府民生活への影響が深刻なものとなって現れるのは次年度以降で
ある。優れた社会・経済ビジョンを描く中で、それに寄与する民主的な財政改革を構築することが早急に求められてい
る。


※注1 4医療費公費負担助成事業の4医療とは、老人、障害者、乳幼児、ひとり親家庭の医療費をさす。

※注2スクールランチとは、中学校で希望者に供されるデリバリー式の弁当

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