人のこころには、意識下に自覚していない領域があり、それが症状をもたらすものであることをはじめて明晰に認識したのはジャネ(Janet,P)であったが、それに<無意識>Unbewusste(unconscious)の名を与え、さらにそれを独特のロマンティシズムの色合いで染め上げたのは、フロイト(Freud,S.)であった。そこでは<無意識>は抑圧された欲動の棲息する領域として、人々の合理的(意識的)生存のしかたをしばしば妨げるものと考えられた。
しかし、<無意識>をコントロールするには、かなり厖大な心的エネルギーを要し、それにもかかわらず、あまり報われない結果にいらだたせられることも多かったのである。それがまた、こうした自己の内なる対立の構図の中で、いっそう<無意識>の厄介な手ごわさを人々に実感させることにもなったのかもしれない。
セラピーは、こころに苦しさをかかえた人たちへの援助である。その人たちに必要なことは、臨床の実践レベルで何ができるかを考えることであるが、それはまた、長い間私たちの間に根強い影響力を放っていた<無意識>論の問い直しもその課題の中に含まれていたのである。無意識の肯定的な働きを想定するユング(Jung,C.G.)やアードラー(Adler,A)が、ある納得感を少なからぬ人々に与えたのも、その一つの表れであったといえよう。