主文
1 被告は、原告に対し、100万円及びこれに対する平成18年3月31日から支払済みまで年6パーセ
ントの割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求主文と同旨
第2 事案の概要
1 請求原因の要旨
原告は平成17年5月10日被告との間でホールインワンを達成した場合に100万円の保険金を
得ることができるゴルファー保険契約を締結した。
原告は平成17年8月11日午後1時30分ころ、Aカントリークラブ(以下「本件ゴルフ場」という)で
プレイ中、同クラブの14番ホールにおいてホールインワンを達成した。上記ゴルファー保険の保険
金を得るためには、ホールインワンを達成したゴルフ場使用人及び同ゴルフ場の証明が必要である
が、原告は本件ゴルフ場使用人B及びゴルフ場支配人Cの証明を得ている。
よって、原告は被告に対し、保険金100万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成
18年3月31日から支払済みまで年6パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
2 被告の主張
本件ゴルフ場は、キャディーのいないゴルフ場であり、原告がホールインワンを達成したとして、ホー
ルインワン保険による保険金が認められるには、本件ゴルフ場の使用人で、原告のホールインワン
の達成を「目撃」した1名以上が署名または記名捺印した被告会社所定のホールインワン証明書が
提出されることが必要である(ゴルファー保険ホールインワン・D特約条項第4条(1)ロ(ロ)(以下「本件
特約条項」という。))。
しかし、本件ゴルフ場使用人Bは、既にカップに入っているボールを確認しただけで、原告がティショ
ットしたところも、原告の打ったボールが直接カップインしたところも見ていないのであるから、原告の
ホールインワンを「目撃」したとはいえず、保険金支払請求の要件を満たしていない。
第3 当裁判所の判断
1 原告が原告主張のホールインワンを達成したことについては、当該ゴルフプレイ中の状況、関係
者の証言等から明らかであると解する。
2 被告が、「キャディーのいないゴルフ場では、ホールインワンを達成したとしても、ホールインワン
保険による保険金が認められるには、本件ゴルフ場の使用人で、原告のホールインワンの達成
を「目撃」した1名以上が署名または記名捺印した被告会社所定のホールインワン証明書が提出
されることが必要である。」と主張する根拠は、概ね次のとおりである。
(1) たとえホールインワンの達成があったとしても、保険金の支払を本件特約条項の保険金支払
請求の要件に限定した趣旨は、第三者の確認等を要求することにより、保険金詐取等の不正
な保険金請求を未然に防ぐことだけではなく、支払要件の確認を客観的・定型的とすることで
調査コストの節約ひいては合理的な保険料の設定と円滑な保険料の支払いを提供するという
保険制度の目的に質するためである。
よって、仮に原告がホールインワンを達成していたとしても、被告所定の証拠方法を満たしてい
ないことを理由に保険金の支払いを拒絶しても何ら不当ではなく、これには十分合理性が認め
られる。
(2) 本件特約条項が例文に過ぎず、何らかの方法によりホールインワンを確認できた場合は保
険金の支払いを認めるべきだとすると、本件のようにキャディーを同伴しない場合、仲間内で
虚構のホールインワンを作り、保険金を不正に請求する危険が高くなり、かかる危険を回避す
るためにホールインワンが達成されたか否かを厳正に調査する必要が生じ、多額の費用と時
間が必要となり、保険金の支払が遅れ、保険料も高額になり、保険会社と契約者との間でホ
ールインワンが達成されたか否かを巡り、多数の紛争が生ずるといった弊害が生じ、上記保
険約款の趣旨が完全に没却されてしまい不当である。
3 確かに、合理的な保険料の設定、調査コストの節約、円滑な保険料の支払いを提供するという
保険制度の目的から、仮に原告がホールインワンを達成していたとしても、被告所定の証拠方
法を満たしていないことを理由に保険金の支払いを拒絶しても必ずしも不当とはいえない。
また、本件約款を例文に過ぎないということもできない。
しかしながら、保険約款の証拠方法が時代の要請に合わず、証明があまりに不可能なものだと
すると、ほとんど保険金の支払われない保険になってしまい、保険の存在意義が疑われることに
もなりかねない。
そこで、保険約款は例文に過ぎないとはいえないが、保険約款の解釈はその保険の趣旨にあ
った時代の要請に適合したものでなければならないと解する。
ちなみに、最近、セルフプレイの場合のホールインワン保険の支払要件の緩和を行う保険会社
も出てきており、例えば、「友人と1組でプレイを申し込んでいたところ、全くの第三者である前の
組のプレイヤー全員がホールインワンを目撃しており、証明書に記名押印してくれた。」場合にも
保険金を支払うように運用の変更を行っている(甲6号証)。これは保険約款の解釈をその保険
の趣旨にあった時代の要請に適合させた例と解することができる。
本件特約条項では、キャディーのいないゴルフ場は、ゴルフ場の使用人で、原告のホールインワ
ンの達成を「目撃」した1名以上が署名または記名捺印した被告会社所定のホールインワン証明
書が提出されることが必要であるとされている。被告は、「目撃」とは、「原告の打ったボールが直
接カップインしたところを見る」ことだというが、ゴルフ場の使用人が原告の打ったボールが直接カ
ップインしたところを見ることはほとんどあり得ないことと思われる。
「目撃」を被告主張のように解すると、セルフプレイの場合は、保険金が支払われる可能性はほと
んどなくなってしまうことになり、妥当でない。よって「目撃」とは、ゴルフ場の使用人が、当時の状
況、関係者の証言等から、ホールインワンしたことの蓋然性が高いと認めた場合も含まれると解
する。
4 本件では、全くの第三者である前の組のプレイヤーがホールインワンを目撃しており、本件ゴル
フ場の使用人である売店の従業員Bが、前の組のプレイヤーの説明を聞き、当時の状況から判
断してホールインワンが達成されたとして、ホールインワンの達成を証明をしている。
よって、本件の場合は、ゴルフ場の使用人が、当時の状況、関係者の証言等からホールインワン
したことの蓋然性が高いと認めた場合と解することができ、ゴルフ場の使用人が、原告のホール
インワンの達成を「目撃」し、ホールインワンの達成を証明をしたとみることができる。
5 以上のとおり、本件ホールインワンの達成は、ゴルフ場の使用人の「目撃」があり、その証明が
あったとみることができるので、本件請求は理由がある。
東京簡易裁判所民事第2室・裁判官丸尾敏也
|