既報通り、名古屋高裁民事第一部は会社分割で新設された会社に対し、商法26条1項(商号続用営業譲受人の責任)を類推適用し、預託金の返還を命じる判決を10月に下したが、より具体的な理由を加えて同高裁民事第3部(青山邦夫裁判長)が同様の判決を7月26日に下したことが分かった。
会員が訴えたのは平成15年の一審(津地裁四日市支部)では、
@ 分割前会社Aに対する請求は預託金3200万円及び遅延損害金範囲で支払いを認め、
A 運営会社C(ゴルフ場の運営管理を当初A、その後新設会社から受託)に対しては商法の
類推適用の前提を欠くとしてこれを棄却、
B 新設会社(平成15年1月にAの会社分割で設立され、以前よりのBの名称を使用してゴルフ
場を経営)に対する請求については、商法を類推適用してAに対する請求と同様に認めた。
この判決を不服として新設会社が控訴していた。
控訴した新設会社は、会社分割においては営業譲渡に関する商法26条1項を類推適用する余地はないと主張。それに、会員全員に送付した平成15年4月の「お願い書」で営業主の交付を告げた”特段の事情”があり、その文書で会員権の株式化を促し株主会員制ゴルフ場を目指したもので、その文書に株式化に同意しない場合の記載がないからといって非難されるものではないと主張。
これに対し、同高裁は商法26条1項について、その条項の主旨や平成16年2月20日の最高裁判決などから、”新設会社がその営業主体を表示するものとして使用されているゴルフクラブの名称を継続して使用する場合には、特段の事情がない限り、商法26条1項の類推適用により、会員が分割前会社に交付した預託金の返還義務を負うものと解するのが相当”と論じた。
加えて、
”商法26条1項は営業譲受人が商号を続用する場合に、営業譲渡人の債権者の外観に対する信頼を保護するため、営業譲受人に弁済義務を定めたものと解するのが相当である”と論じ、
”既に資産を新設会社に譲渡した分割前会社から会員が預託金の返還を得ることは極めて困難になっている”状況や、
”商号が続用され、外観上営業が新設会社に移転した事実が明らかでないような場合には債権者が実質的に債権実現の機会を失う恐れがあることは否定できない”
ことから、これを保護すべき必要があることは営業譲渡の場合と異ならないと論じた。
また新設会社が営業主の交代を告げた”特段の事情”があったとの主張には、譲受人が譲受後延滞なく会員の優先的利用権を拒否した”特段の事情”があったとは認められず、会員の預託金請求権など債権者の権利義務を明確に説明したとは言えないと認定し、新設会社の主張を退けた。
ちなみに、舞台となったのは涼仙GC(18H、三重県)で、名古屋高裁(青山裁判長)は10月25日にもゴルフ場運営の(株)涼仙に対し、預託金の支払いを命じる逆転判決を下した。
一審の名古屋地裁は会員の請求を棄却したが、高裁は「ゴルフ場運営会社の実態は会社分割前とそれほど変わっていない」としてゴルフ場の主張を退けたという。
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預託金関連の判例その他(参照記事)
↓↓↓ 平成29年8月20日追加
涼仙GC、旧経営の大東開発(株)が解散公告
7月28日付け官報に、「涼仙ゴルフ倶楽部」(平成4年7月開場、18H、三重県いなべ市員弁町東一色2796、TEL:0594-74-5110)の旧経営会社・大東開発(株)(水谷紀夫代表清算人、三重県桑名市大字福島753-2、)が、平成29年6月30日開催の株主総会の決議により解散した旨を公告したことが判明した。
涼仙GC URL=http://www.ryosengolf.co.jp/
弊社既報通り、大東開発は会社分割により平成15年1月8日に設立した新会社・(株)涼仙に施設の所有権を移転し、会員の預託金を(株)涼仙の株式に転換し株主会員制に転換したものの、会員から預託金返還請求を巡って前述の通り裁判にまで発展。
同GCは(株)涼仙が親会社である(株)涼仙ゴルフ倶楽部に施設を賃貸し、ゴルフ場の運営を委託している。
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