今やアフリカンプリントはポピュラーな存在となり、さまざまな場所でウェアや小物、ファブリックを見かけます。明るい色やモチーフは装いのアクセントとなり、身につけると気分があがります。
今回の生地をみかけたのは6月の初め頃でした。
アフリカの赤みがかった土や抜けるような青空、ふりそそぐ光を表現したような色合いは、どこかフランスの香りも漂わせていて、買ってかえらずにはいられませんでした。
しばらくは、目にふれるところに置いてながめながら、アイデアが浮かんでくるのを待っていました。
おかげさまで、患っていた右腕の五十肩がほぼ完治し、気力もだいぶ戻ってきたので、毎月は無理かもしれないけれど、マンスリーキットを再開したいと思い始めていました。そしてそれにあたり今回はこのアフリカンプリントに挑んでみようと考えました。
ちょっとブランクもありますから、思考のリハビリとしていつも以上にさまざまな本や資料を見直しました。その中の1冊、『和のデザイン』の「ロゴ」の項をながめていた時、「環」の文字をモチーフにしたものに目が留まりました。すべてのパーツが四角または三角で構成されており、ちょうどパッチワークの図案を考えていた時で、「漢字」をデザインの中に取り込むのは面白いかも?とそのロゴを参考に長方形の中に文字を落とし込んでいきました。(「環」の字が見えますか?)
「環」といえば環境のカン、というのが私のイメージでしたが、念のためと思い調べてみたところ「たま・たまき」とも読む字であり、輪状のもの、転じて生命のつながりを表していることを知りました。
プリントに合わせる色は黒。強い日差しが宿す真っ黒な影がアフリカについて考えるとき頭に浮かびます。あくまでもプリントを主役にしたかったので、ビーズはオーソドックスなものを、同系色で、規則的につけて、引き立てるためのものにしたつもりだったのですが、仕上がってみると、想像以上の存在感がありました。なぜだろうと考えた結果、プリントに描かれた文様が、ビーズやスパングルと似ていて、それらと呼応して繰り返すようなリズムが生まれたのではないかと思えました。
プリントやパッチワークに遊びがある分、フォルムはかっちりとしたスクエアーなものに。艶消しの黒のベルト金具を選んで硬質な雰囲気をプラス。(持ち手部分は完成品をご用意します)
いっぽう開き口のファスナー部分の始末は、子犬のしっぽのような、ハシビロコウの口ばしのようなユニークな形状にしてみました。
後ろ部分はプリントの魅力がたっぷりと見えて、横一文字に配した黒の中にはポケットのファスナーが格納されています。
私の頭の中で、そして目の前で素材が出会い、広がったり、ぎゅっとまとめられたりしながらひとつになって新たな形と役割を与えられ、存在し続ける、それは「環」という文字にいにしえの人々がこめた思いとどこか似ています。
ご覧のとおり、短時間で仕上げられる作品とは言い難いですが、これまで私のキットに親しんで下さったみなさまは、新しいものにチャレンジする楽しみ、ていねいに工程を重ねていくことの醍醐味を十分にご存じだと確信していますので、私も迷うことなく提案させていただきます。
仕上がったら、どんな服に合わせよう、だれとどこへ出かけよう、そう、作る前から気持ちはもうバッグを携えて、未来へと歩きだしているのではないでしょうか。