菊、牡丹、紅葉といった古典柄の雅やかさを引き立てる紫色、縮緬に染められることによってさらに深みを増し、見つめていると吸い込まれていくような感覚をおぼえます。その質感ゆえの魅力がビニールコーティングによってわかりにくくなることを考えると、躊躇する気持ちがあったのですが、その一方で摩擦による劣化を心配しないで使ってもらいたいという思いがあり、試みることにしました。
コーティングによって生地の質感が変わりますが、あらたな艶が生まれ、ステッチも籬(まがき)のように見えて、花にかかってもそれほど不自然には感じません。昔の着物の良さを生かしながら今の生活にフィットする、という方向が決まったので、合わせる生地は「和」テイストのポップな色と柄のものがいい、となると西荻窪の『カントリーキルトマーケット』かな、と久しぶりにお店を訪れました。なんとなく様子が違うなあと思いながらふと入口を見ると「閉店セール」のポスターが。えっ?と思いながら中に入ってみると大部分のラックが空になっていて、本当なんだと認識したものの、しばらくは頭に何も入らないまま、お店の中を何周も歩き回っていました。そうしている間にもお客さんがどんどん入ってきて、生地の巻き板をたくさんかかえてレジに並んでいくので、ああ、ぼんやりしていては必要なものが買えなくなってしまう!と気持ちを取り直し、残された商品をひとつひとつ真剣に見ていきました。
今回のキットに使ったプリント地はすべてカントリーさん(と呼んでいたので)のものです。中でも、ネオンカラーの亀甲柄が気にいっています。この生地を仕入れるオーナーの思いきりのよさが私にとっては大きな魅力でした。以前、新百合ヶ丘のイオンにも出店されている時期があり、スタッフの方々ともずいぶん親しくさせていただいていたのですが、私が選んだブレードを見て「この良さがわかるのは大西さんくらいなのよねぇ~」と笑いながらほめて(?)もらったことがあります。ですので、いろいろなことを含めて本当に本当にさみしいけれど、このポーチのファスナーを開くたびに、いろいろなことを思い出せるような気がします。ちなみに店舗でのセールは4月16日までのようです。機会がございましたら、ぜひ。
さて、作品の説明にもどりましょう。ビニールコーティングについて、家庭用のミシンでうまくできるかなと心配な方もいらっしゃるとおもいますので、今回はコーティング&ステッチした状態でお渡しします。柄行はサンプルのものと写真のものの2種類になります。どちらが届くかはお任せということでお願いします。
今回もオプションでストラップをご用意します。ディープグリーンの合皮を使ったものでベルト部分は完成しており、金具のみを縫いつけていただきます。
また、もうひとつオプションでバネ口金のポーチキットをお揃いでご用意いたしました。コインケースのほか、パスケースやキーケース、イヤホン収納などにも便利に使っていただけます。こちらについては柄はおまかせということでお願いします。
折しも4月は出会いと別れが交錯する季節ですね。そしてそれほど大きなことではなくても日常の中でさまざまなものや人にめぐり逢い、救われ、知らず知らずのうちにそこを通り過ぎている、そういった中で暮らしていることに気がつきます。時々はそのことを思い出して、感謝の言葉をつぶやいてみようと思います。