毎年同じサイズでイヤーバッグを作り始めて今年で5年目。今年のバッグを制作が終わるとすぐに2021年のデザインを考え始めました。そうしないと間に合わないことを実感していたからです。シンプルなものほど難しい、これは真実だと知りました。テーマは『音楽』、楽器をモチーフにしようということは最初に決めていたのに、全然イメージがわいてこない。何から手をつけていいのかわからない。挙句の果てにテーマを『フルーツパフェ』(!?)に変えようかを思って資料をあつめようとした時期もありました。
デザインのきっかけとなったのは、マイルス・デイヴィスのドキュメンタリー映画のチラシでトランペットのイラストを見て、カッコいい!トランペットありだなと思ったこと。その後しばらくして、今度は雑誌『暮らしの手帖』で張り子で作られたギターをみて、ギター、かわいい。よし、トランペットとギターをモチーフにしようと決まったのが、11月も後半になってからでした。
今回は布も自分で染めてみたいと思っていたので、まずはギターとトランペットを作るための布の染料と布を購入。布を染めるのは、ほぼ初めてのことで大丈夫かなぁと思ったのですが、素材は進化してます、レシピ通りの手順でやるとムラなく染まり、むしろムラがなさ過ぎて自分で染めた意味があまり感じられなかったくらい。次にこの生地に合わせるプリント地を探しに行きました。まだ明確にイメージが固まっていないので、少し多めに選んだのですが、この時余分に選んだものが他のモチーフに使えたりと役に立ちました。生地が決まってようやくビーズとスパングルを選ぶことができます。久しぶりにじっくり売り場を回ると新しい商品が並んでいて思わず触手がのびます。また、この段階でベースとなる生地をブルー系にしようと決め、いくつか見たのですが、なかなかピンとくるものがありませんでした。帰宅して作業をしているときに、ふと思い出して布のストックの中から以前友人が送ってくれたイタリア製のリネンと化繊の混紡の生地を合わせてみると、生地の質感がぴったりでこれを使おうと決めました。ところがモチーフを重ねてみるとトランペットの黄色と色のトーンが近くて映えない、困ったぁ~と悩んでいた時に「黒」のレコード盤に重ねるというアイデアが浮かびました。これによって『音楽』というテーマにより近づき、奥行きも出ました。そして真ん中の部分に「2021」をステンシルで入れることも決定。
ほぼアップリケ、コラージュが終わり正面部分の完成が見えてきたな、と思えた頃、テレビで小説『蜜蜂と遠雷』の舞台にもなった浜松の国際ピアノコンクールの番組を見て、やっぱり楽器といえばピアノだよね、どこかに鍵盤入れたほうがよかったかなぁと思った ものの、もうその空間はなし。そうだ、はみ出てもいいか、とスエードとリボンで鍵盤を両脇に付けました。現物を見たら必ず、指をのせてみたくなると思います、楽しい!
そしていよいよ持ち手。持ち手はバッグの要、と何度か書かせていただいた記憶がありますが、本当にこれでバッグの完成度は大きく左右されます。作り始めた時は全く見えなかったけれど、トランペットやギター、そしてレコードから流れる音をイメージして付けたスパングルが、クラッカーから飛び出した紙吹雪のように見えたので、その流れで紙テープのような持ち手にしようというアイデアが浮かんで来たのです。
材料を求めて何度も足を運び、身近なものにヒントをもらい、心を動かされながらようやく形になりました。
視覚だけでなく、五感にひびくような作品を作りたい、花のモチーフからは本物の花の香りが漂うような感覚を、使い心地を重視した素材からは心地よさを感じてもらえたらと思いながら、日々の製作を行っています。
今回はテーマの通り、見ていただく方の頭の中に自然と音楽が流れだしていたら嬉しいです。いつもの年のように集まってにぎやかに過ごすことがむずかしい状況ですが、バッグを作りながら、使いながら、心の中はパーティー気分!みなさんにそんなふうに楽しんでいただけたら、今年もそんなに悪い年ではなかったと思えるでしょう。
自分ひとりの気持ちや行動ではどうにもできない現実を目の前にして、気持ちが揺れることもありますが、自分にはやりたいことがある、その幸運を大切に、安全で安心して過ごせる日々が戻ってくるのを待ちたいと思います。
みなさまも、どうぞ心身ともに気を付けて、穏やかに年越しをお過ごしください。そして共に新しい年をフレッシュな気持ちで迎えましょう!