遠目ではわかりにくいかもしれませんが、プリント地の部分は、孔雀のような尾をもつ鳥や、なでしこ、チューリップらしき小花がランダムにからみ合っていて、とてもユニーク。
この生地は数年前、洋裁の先生をなさっていた方がアトリエをたたむ際に放出したものを譲っていただいたうちのひとつです。その時から気にいっていたので、すぐに形になるだろうと思っていたのですが、これがなかなか・・・
ふり返ると使用した素材そのものは着手したときと完成したときでほとんど変わりません。今、その時の自分を俯瞰してみると、迷路が仕組まれた小さな箱の中を出口をもとめて右往左往していた感じ。悪くはないんだけれど、何かがずれている、うまくかみ合っていない気がする、と。
悩みつつ、解決のきっかけを見つけたくて、ネットで最新のコレクション画像を見たり、スクラップブックをめくったり、過去の作品を振り返ったり、考えられるありとあらゆる方法を試しました。そしてようやく気が付いたのです。これまで何百という作品を作ってきたけれど、ネイビー、赤、山吹という3色の組み合わせで何かを作ったことは一度もなかったと。今になってこの色彩のめずらしさに気づき、20年以上の時を重ねながら、自分はこれから初めての経験をしようとしていることに驚き、少し感動しました。
生地のモチーフに気を取られていた自分をいったん封印し、新たな目でこの生地を見ると、綿サテンの光沢をいかすためにはギャザーをよせるデザインにしたほうがよいと思い、大きくデザイン変更。いくつかを試してラウンド型に落ち着きました。以前作ったことのあるデザインですが、中を見やすくするために脇のクリを少し深くし、反対に入れ口側を少し詰めて生地がよじれやすくなるのを防ぎました。小さなことですが、スエードリボンの長さやポンポンの大きさ、並べる順番も何度か直してしっくりくるバランスを見つけました。
そしていよいよ要となる持ち手の部分。ポンポンのカジュアルさと対比して上質感を出すためにDカンを革でくるむことは決めていたのですが、持ち手の色と太さがなかなか決まらない。無地?いや柄かな。しかし本体の柄とぶつかるものはだめだし・・・あっ、もしかして同じ生地を使うのは?ここまで悩みすぎたせいで、すっかり弱気になっていたのですが、まあ、やるだけやってダメならまた考えよう、くらいの気持ちで丸紐を通したタイプのものを作ってみたとき、私はまた新たな発見をするのです。
小さな面積になることによって、この3色のコントラストがぐっと引き立ち、そこにモダンアートやアフリカンアートに通じる美しさを見つけ、しばらくみとれてしまいました。持ち手が加わることによって調和が生まれ、それぞれのパーツや生地が、その位置にあることがきっちりと意味づけされたように見えました。
上部のフォルムのほかに、コンパクトなスペースを無駄なく使うための大きめのメッシュポケットを内側の両面につけたり、薄手の底板を入れたりと、ところどころバージョンアップしています。また、持ち手部分は家庭用のミシンでは縫い合わせがむずかしいところがあるので、完成したものをご用意します。(画像をご参照ください)
日暮れが日々早くなり、なんとなくしんみりしてしまう時節です。部屋とこころをポッと明るくしてくれるバッグを作ってみませんか。