バッグを作り続けて20年ほど。流行の中にあるものなので、その時のファッションの流れに応じてデザインは変わっていくのですが、変化の必要性をもっとも感じたのが、携帯電話用のポケットのサイズです。
携帯電話を多くの人が持つことになってから、取り出しやすいように外側にポケットを付けることは、デイリーに使うバッグにおいては必須となり、ポケットの幅や深さは携帯電話の形の変化に対応できるよう工夫してきました。一時コンパクトになったのが、スマートフォンへの移行によってふたたび大きく重くなり、さらに今ではその大きさもさまざまで、最近はそれ専用のポケットというよりは、頻繁に使うものを出来るだけスムーズに取り出せる大きめの外ポケットという仕様で組み込むようにしています。
そして、いよいよこの変化の波は、お財布にもおとずれています。ひと昔前は、大人になったら長財布にきれいなお札を常備しておくのが嗜みとされていたような気がします。またスーパーはもちろん、本屋、花屋に至るまでポイントカードを発行するので、カードポケットはいくつあっても足りないという状況。それを変えようとしているのが、ここでもまたスマートフォンなのです。この数年で私自身、ポイントカードのいくつかをスマートフォンのアプリに変更することができました。奥手(?)な私としては、お財布機能を持たせることにはまだ抵抗があるのですが、ただ、交通機関のカードで決済できるところが増えたおかげでこれがずいぶんと役に立っています。特に荷物の多い旅行の時などは、とても便利で、振り返ってみると今日は一度もお財布を開かなかった、という日がありました。そんな自分の実感をふまえて、今年はお財布をリニューアルしてみようと思います。それもひとつの形にこだわらず、また、お財布という機能を越えた、多機能なポーチにもなるもの、それぞれのシーンに適応できるものをいろいろと考えてみたいと思っています。
今回のサイズは、これまでの長財布より2センチ幅がせまく、約2センチ高さが高くなっています。何を基準にしたかといいますと、「お薬手帳」。私自身は幸い携帯する機会は少ないのですが、いざ持っていくとなるとどこにいれようかと悩みます。あと、はがき。これもそのままバッグに入れるのは折れ目が付きそうで、かと言ってそのためにファイルを用意するのも何だか、と迷うところでした。2センチ高さを出すことでこれらに対応できるようになり、また手前のポケットは通帳やパスポートを収めるのにちょうどよい大きさです。
カードポケットは片面のみで横向きに収納できるスペースが5つと縦向きに収納できるスペースが2つ。ひとつのスペースに複数枚入れることもできます。カードポケットの後ろ側にお札を入れられるスペースがあり、従来より少し狭いものの、1万円札もそのまま入れることができます。
外側にもカードや鍵を入れられるポケットがありますので、旅行の時などはこれとスマートフォン(機種によっては中に入ります)さえバッグに入れておけば大丈夫、ということであえて「マルチポーチ」と命名させていただきました。
「春」を色で抽象的に表現したいと思い、これまでにはないピンク×ネイビーという色合わせに挑んでみました。当初、梅や桜、桃といった春の花と、まだ雪が残る富士山頂をイメージしていたのですが、いろいろな素材を組み合わせていくうちに、ふと縦に長い日本列島を俯瞰した情景のように思えてきました。3月の初旬のある一日を空から眺めると、花が咲いているところもあれば、まだまだ雪の残った地面もある、それらは交わりながら刻々と流れ、新しい風景を生み出している・・・そんな自由な発想を楽しめるのも抽象のよいところです。
表側の流れからすると内側はピンク?と私もそのつもりだったのですが、なかなか合うものが見つかりません。しつこく生地屋のフロアをぐるぐる回っていたとき、絶妙の色と光沢にはっとして立ち止まり、「こっちもあり?」と思わず呟いたのがネイビーのコットンサテン。生地の耳の綿毛のような織り糸の端を見て、この品のある光沢が、織られた糸の細さによるものだということに気づきました。もう一色は同じく細い糸で織られた、柄の精緻さが際立つライトグレイの格子柄。リニューアルにふさわしい新しい表情になったかと思います。
縁取りは、グレイの中からかすかにピンクを匂わせる、春先の山肌の風情を連想させる織地をバイアステープ状に仕立てたものを使用しています。
作り方も工夫をして、生地の重なりによる厚みが出来るだけ少なくなるようにしました。
世の中はこれからも、私たちの予測を越えて変わっていくでしょう。ここは大人の余裕で、あわてず、恐れず、ちょっとだけ後ろから、楽しく優雅についていきましょう。