同じ構図の写真をカラーで見るのとモノクロで見るのとでは脳の働く部分が違うような気がします。
モノクロの写真を前にすると自ずと記憶の引き出しがひらき始め、ここはきっとこんな色、と自分だけの色彩が頭の中に広がります。
しかし究極のモノクロといえば本や楽譜ではないでしょうか。そこから広がるイマジネーションの世界は十人十色で無限大。読書と音楽によって得られたものが、制作に反映されることはとても多く、そして重要です。
今は指先のタッチひとつで一瞬のうちにすべてが提示される、そんな時代だからこそ、意識をして白と黒だけの世界に身を置く時間を大切にしたいと思います。
今回のバッグには作る人自身によってさまざまな色を投影していただき、ひととき、心を日常から旅立たせてもらえたら、という思いを添えさせていただきました。
斜めにはぎ合せたのは、デザイン上の効果もありますが、それが人生に似ていると思えたから。
正面から見据えるだけでなく、少し違う角度から覗いてみることによって見えてくるもの、受け入れられることがある、そしてそれらがぶつかっても、壊れることはなく、そこにあらたな風景が生まれる、作りながらそんなことを考えました。
できるだけさまざまな質感の素材を選び、奥行きと深みを出します。よき人生のように。
前面にエネルギーを使っていただきますので、その他の工程はできるだけシンプルにしました。
後ろ面のポケットは、ウール地が摩擦で毛羽立たないようにビニールを重ね、織り柄にそってステッチをします。
中央に仕切りをつけ、スマートフォンや眼鏡がきれいに収まる深めのポケットにしました。
内側は無機質な外側と対照的に、みずうみのように深くしっとりとした有機的なブルー。
この意外性は持つ人だけでなく、すれ違う人をはっとさせ、何かを心に投じるでしょう。
誰かがこのバッグを持って歩くことによって、誰かの心が動く、そんな風景が私の頭の中に鮮やかに広がります。