19世紀の西洋の静物画に描かれているチューリップは、羽のような花びらを幾枚ももち、ほっそりとした茎をしならせて、どこか物憂げで儚げな風情で、見るものを魅了します。
しかしその起源は中近東にあり、オスマン帝国時代にヨーロッパにもたらされたようです。
原種といわれるものの写真を見ると、意外、と思うことでしょう。
象徴ともいえる茎は短く、野趣を感じさせる鋭角的な花びらからなる花がその上に乗っかっていて、優雅とは程遠い。
それがヨーロッパ各地にわたり、品種改良が重ねられ、ついには「チューリップ・バブル」と呼ばれる異常な相場取引商品となり、オランダ中を騒がせる事件になるとは・・・。
花の魔力は計り知れないもの、そして人間の欲望の深さも同様といえます。
着物に描かれたチューリップを眺めながら、これを描いた人はどんな絵や写真を参考にしたのだろうかと考えます。
大正期には日本にも伝わっていたようですが、それはもしかしたら植物図鑑に描かれた原種に近いものだったのか、それとも西洋風のたおやかな花の中に潜む中央アジアのルーツを嗅ぎ取ったのか?のびのびと描かれた着物の中のチューリップの幾何学模様が中近東の織物の柄のようにも見え、また何か呪術的なものも感じて、空想はとめどなく広がります。
異国の文化とはいえ、中近東やアジアから伝わってきたものは、西洋から入ってきたものとは違う「地続き感」のある親しみを感じます。
その空気を感じさせるもの、たとえば重厚感のある竹を使った持ち手、光の加減によって地模様が浮かび上がる玉虫の表情を持つ布、民族衣装にあるようなフリンジ・・・描かれたチューリップから連想されるイメージをパーツに置き換えてひとつひとつ重ねていきました。
最後、ベルトの色に迷いましたが、これだ、と目が留まったのはチューリップの葉っぱと同じ色。改めて思い起こすと、つや消しの表面といい、微妙にドレープを描いている形といい、花とは違うことを考えているような在りよう。それもまた魅力のひとつと数えられそうです。
関東はすでに梅雨も明け、今年は長く厳しい夏になりそうな予感。まぶしい日差しを避けて憩う日陰を思わせる、涼やかな薄墨色のバッグを新しいアイテムに加えてみてはいかがでしょう。