写真でも実物でも、過去の自分の作品を見ることには躊躇があります。
アルバムや昔の日記帳をめくるのと同じくらいの勇気が要ります。
まず、かつての作品は今より拙いものときめ込んでいる(今の自分は確実に進歩していると思いたい?)上で、実物を見てその事実を認めなければならない、それがつらいのです。
そんなふうですから、思いがけず過去に作った作品をほめられたり、新しいお客様に古い作品のレシピを所望されると、嬉しい気持ちとともに、それは自分の認識を改める貴重な機会となります。
今回メインで使った切り絵のような紫の花の小紋は2014年のマンスリーキットで使ったもの。今、改めて見てもモダンで魅力のある意匠です。これを今の自分ならどんな風に生かせるだろうかという好奇心が湧いてきました。
モチーフの直線的なラインによせて、バッグの形はシャープなものにしようと思ったとき、「2011年2月の東急セミナーのバッグが好き!」と最近何人かの方に言っていただいたことがふと頭をよぎりました。
私の視点では、サイズ感や仕様が利便性に欠けるように思えますが、確かに私の作品の中ではめずらしいデザインかもしれません。目についた「欠点」をうまくリカバーできれば、充分「今」に通用するバッグに進化させられる、そんな期待を抱きつつ制作を進めました。
着物地を使って大きめのバッグを作るときのポイントとして、体に触れる後ろ面、角、力のかかる持ち手付けの付近には着物地を用いず、摩擦につよく、強度のある生地を使うという「経験」をデザインの中に落とし込んでいきます。
直線的なデザインに合わせるなら、レースはモチーフの陰影がはっきりしたものを。今回は西洋建築の門扉や螺旋階段に使われるアイアンモチーフのような硬質なイメージであしらいました。
そして、紫の花の小紋は「花」ではなく、大きさや透明感の違う4種類のスパングルを使って、周りの「白」を埋め尽くすことでモチーフを引き立てるという手法に変えました。
サイズをひと回り大きくし、バッグの口を開けなくても使えるポケットをフラップの下と後ろ面に各1つ、内側には型紙を生かしたメッシュのポケットが1つ、と、大きさと仕様の使うポケットを3個備えました。
せっかくの進化ですから、マグネットもハイブランドのバッグで使われるような内蔵タイプのものを。
正面から見ただけでは気づかないバーバリー調の生地の玉虫色のへんげとキラキラという音が聞こえてきそうなスパングルの躍動感のある輝き。
初めてこの形のバッグに触れる方に、7年、いえもっと前から私の作品を見守って下さった方々に、新鮮な魅力を感じて頂けたら光栄です。