好きか嫌いかは置いておいて、私なら、これを作った人にこんなふうに尋ねてみたい。
「このストーリーはどこから始まったのですか?」と。
制作のきっかけとなったのは、持ち手あたりに使った、小紋のようなフランス製のプリント地との出会いです。
いくつか並んでいるものの中から、必ず使うであろうと見定めた3種類を買って帰りました。
模様の大きさから、当初はもう少しちいさなバッグをイメージしていましたが、その数日後、ヴィンテージものを扱うネットショップで懐かしい花柄に出
会い、考えが変わりました。
先のプリント地のうち1つを外してこの花柄を加え、かねてから作ってみたかったアルミ口金を持ち手に使ったバッグに挑むことに決めました。
バッグが大きくなると装飾に工夫が必要となります。「サマーバッグ」と呼んでいますが、個性的で深みのある色がベースとなりますので季節を問わず使
えそうです。でも、やはりせっかくこの時期につくるのですから、やはり何か夏を感じるものを加えたい、ということでかつて夏の手芸で親しまれたアンダ
リアを使ったポンポンをバッグの正面に据え、ボリュームと立体感を出しました。
そしてもうひとつ、赤。加わることによってパワーが生まれ、色の広がりがでます。が、フォルムが横長なので、同系色だけでは、色が流れ出てしまいそ
うなので、引き締めに黒を加えます。並べた黒のボタンが浮き上がらないように、黒のポンポンを足して装飾部分とのつながりを作ります。
艶のあるバックルをマットな革にくぐらせて「分断」するのも、横の長さの強調を抑える目的を兼ねた装飾です。
フェイスブックでご紹介したとおり、この形を作るにあたっては、あらかじめ別素材でサンプルを作りました。
その時によいと思った、革にギャザーを寄せてテープ状にしたものを、今回は縫いやすくするため、合皮に差し替えました。
また、持ち手の革は触り心地の良さからそのまま引き継ぎたかったのですが、表に返す時に、革がなかなかすべらず苦労したので、一部を薄くて摩擦の少
ない布に変えました。見た目にもこのほうが軽やかです。
また、サンプルにはなかったフリンジが加わることで、重心が中央に定まり、安定感が生まれたように思います。
不思議ですよね、実際の形は変わっていないのに・・・
微調整を重ねながら最後に迷ったのが、ただひとつ水色のパーツを加えるかどうかということ。他にブルーがないので、唐突すぎるかなぁとあちこちに置
き換えて悩んでいると、丸めた変わり糸の中に小さなブルーを見つけ、その近くに広い面が見えない付け方で加えることで落ち着きました。
客観的な目を求めて最後はいつも鏡の前でチェックをします。その結果、白いセラミックのリングをひとつ足しました。
白がアクセントとなりつつも、浮き上がりすぎないのは、もしゃもしゃのチャコールグレイのテープに鍵があります。
チャコールグレイは黒と白から成る色。この色が間に入ることで、黒と白が共に存在できるのです。
広がったものを狭めたり、あちらを切り離したかと思ったら、こちらであいだをとりもったり・・・ある意味、滑稽とも思える作業ですがこれらは、料
理、音楽、メイクなど、何かを作る、という流れの中で当たり前のように繰り返されている行為であり、ひいては人生や社会もこんなゆらぎを孕みつつ、絶
妙のバランスの上に成り立っているのかもしれません。
常夏の花のような濃厚な香りと密度を感じさせるバッグ、秋冬のボリュームのあるファッションにも負けない存在感がありますのでじっくり取り組んでい
ただいて大丈夫です。エネルギッシュな色が指先から、目から伝わって、持つ人を元気に、幸せにしてくれますように。