制作を通しての着物との付き合いは20年になります。
骨董市をめぐって手に入れたり、縁ある方々から譲っていただいたりしたおかげでさまざまな種類の着物や帯とふれあうことができました。
その時々で心惹かれるものは変わりましたが、まだまだ興味は尽きません。
今回は江戸小紋と無地、私にしては、かなり渋めの選択です。
解いてもらった着物地を手入れする段階でいろいろなことに気がつきました。
小紋は、日常の景色の中にあるもの、または人々の祈りや願いがモチーフとなって構成されています。
他の国にも小紋のような小さな柄はありますが、これほどまでに多彩で、しかも洗練されたデザインは他に類がないのではないかと思います。
また、縮緬やお召しなど、糸に撚りをかけて織られた無地は、生地表面のしぼによって、色が外へではなく、奥へ奥へと入っていく感覚、「深み」を
感じ させてくれます。
よろけ縞、ムジナ菊、檜垣文、葡萄鼠(ぶどうねず)、滅紫(けしむらさき)・・・文様や色の名前を知ると、さらにいとおしさが増します。
魅力を引き立てる、というよりは、これに倣い、学ぶという気持ちで合わせる生地を選んでいきました。
マチの部分はざっくりと織られたイギリスのリネン。
バッグになって丸みを帯びると、リネン糸がパールのような輝きを放ちます。
そのほかにも、織りによって柄が出されたものや地模様のある無地を意識してえらびました。
装飾に使うビーズも布や糸を使ったもの、木製のもの、艶消しの金属など、着物地に自然に寄り添いながら、そこにさらなる奥行きを添えられるもの
に限定しました。
慎重に選んだ素材による組み合わせ、息を詰めたような緊張感はバッグの形になった瞬間、解き放たれ、新たな鼓動へと変わりました。
昨日、仕上がったバッグを、はす向かいの椅子に置いてほかの作業をしていた時、ふっと顔を上げた瞬間にバッグと目が合いました。
この表現が決しておおげさではないたたずまいで、そこにすわっているのです。あったかくて、頼もしくて、ありがたい相棒のように。
もともとこの形ありきで始まったバッグ、使っているときも使っていないときもフォルムをキープするために、新たな手法を取り入れました。
とは言っても決して難しくはありません。
一見手ごわそうに見えるかもしれませんが、いつもよりプロセスが少なく、ファスナー付けや細かい刺繍もありません、よ。
内側には深めのメッシュのポケットが付いて、ボトルや折りたたみの傘を入れるのにも便利です。
生活の中から生まれたさりげない色や柄が、個性的な形の中で有機的なあたたかみをともなって結実できたことは、導かれながらひとつのものを作り
あげ ることの喜びを思い起こさせてくれました。
まあるい気持ちをそえて、お届けしたいと思います。