無事サンプルのバッグが仕上がり、さてデータをまとめようと思い、パソコンに向かうものの、一向に筆が進みません。
試行錯誤の末、ようやく仕上がった作品の時は、こんなところで悩み、こんな苦労があったんです、と溢れだしそうな気持ちを勢いで綴っていきます。
でも、まるで目的地までの信号が全て青だった日のように、出かける先で相応しい素材が見つかり、するすると出来上がった今回のような場合、逆に、これでよかったのだろうか?という不安がふと芽生えてきたりするという皮肉。
自分には想像もつきませんが、パーフェクトな美人または文武両道に優れた秀才諸兄は密かにこんな悩みを抱いているのでしょうか。
しかし、自分自身に似ていなくとも、このバッグは紛れもなく愛しいわが子。私だけが知る、彼女の機能や内面の魅力について記させていただきましょう。まず今回のコンセプトは「使いやすいギャザーバッグを作る」ということ。
これまで作ってきたギャザーバッグに於いて「ここがもう少しこうだったら・・・」という点を洗い出し(すごいぞ!)何とか改良できないかと考えてみました。そのひとつが「口の開きをもう少し広くし、かつ、安全なものにできないか」という点。縦長のバッグの場合、開き口が上にしかないと底のほうにあるものが見え難く不便です。
思い切ってビジネスバッグ制作時と同じファスナーに変え、脇の方まで開き口を広げました。ほんの5センチほどのことですが、ずいぶんと中が見やすくなりました。ファスナーは向かい合わせの引手を付けて開けやすくなっています。
ただ、せっかくファスナーを付けても周りの布が柔らかいとスムーズに開かず、空いている方の手でファスナーの周りを持ったりしなければならず、ちょっと残念なことになってしまいがち。そこで、サンプル段階では薄いポリエチレンの芯を口回りに入れてみました。
しかしこのバッグはファスナー付け布の裏地にしっかりしたキャンバス地(艶のある美しいターコイズブルーです)を使ったので、これだけでも十分に支えることができ、芯は不要、と思われたのですが、先の芯は上部に付けたファスナーポケットのファスナーを裏からサポートしてくれて開けやすくしてくれてもいたのです。
そこで、より扱いやすいシールタイプの芯を口回りより少し下がった位置に貼ることにしました。どのバッグにもできれば外ポケットを付けたいと考えますが、今回はデザインと作りやすさを考えてバッグ上部の両面のこの位置につけました。スマートフォンを入れることを想定して、かなり深さのあるポケットにしたため、このポケット布がなかなか安定しなかったのですが、それもこの芯を貼ることで解消です。ファスナー付けの布と同じ生地を使っているので、ポケットを開けたときの、「ん?つながってる?」と勘違いする騙し絵的な面白さも気に入っています。
ギャザーバッグのふっくらとした形のドレスのようなクラッシックさは大きな魅力ですが、入れたものが中でゴロゴロしてしまうというのが難点です。ここは涙をのんで、ギャザーを減らしました。フォルムは少し変わりましたが、だるまのような、洋ナシのような、そして愛しい猫の座った後ろ姿のようなこの形は、私にとって、平穏・平和のシンボル。
心が落ち着きます。
初めて底板も入れてみました。曲線の底に底板はどうかしらと思いましたが、程よい弾力で頼もしさがあります。内側のメッシュポケットは深めにしてありますので、ペットボトルやメガネをすっぽり納めることができます。
せっかくなので、ショルダーベルトも付けました。この布、おそらく最初は「裏」を「表」と思ってしまうかもしれません。そんな控えめな表情の表側ですが、見れば見るほどその奥深さがわかり、最終的に個性の強い生地たちのまとめ役となってくれました。
バッグが仕上がった時は常にそれをもって鏡の前に立ってみるのですが、ここで想定外の出来事が!
なんかしっくりこない、えっ、嘘でしょ。狼狽する気持ちを抑え、冷静に再度鏡を見つめます。わかりました、自分の服装があまりにも「夏」なのです。クローゼットを開け、秋物のコートに合わせてみたら、ようやく落ち着いた雰囲気に。
今秋注目カラーのカーキやレンガ色ともうまく馴染みながら、よいアクセントになってくれそうです。
移り変わる光の色や街の色合いの中で、また新たな表情を見せてくれそうなバッグを持つ時間が今から待ち遠しいです。