裏布の返し口を閉じ、はみ出した糸を切って形を整え、フックに掛ける。
すべてがしっくりと馴染み、違和感なく存在しているバッグを眺めながら、よくぞ、こうして仕上がってくれたものだ、と作った本人がしみじみ呟くという、不思議。
終わり良ければ総て良し、とはいうものの、山あり谷ありだった制作過程を少しだけ、語らせて下さい。
今回はヴィジューを使ったヴィンテージ風のバッグにしたいと思い、資料を元にイメージを少しずつ固めていました。ほぼデザインが決まりかけたとき、ある生地のことが記憶に蘇りました。そうだ、あれなら合うかも!そして翌日意気揚々と目的の店に向かったのですが、まさかの売り切れ。呆然となりながらも、頭の一部は妙に冷静で、電車を乗り継いできたのだから、このまま帰るのは勿体ない。とにかく、何かひとつ、自分が気に入ったものを買って帰ろうと決意。あとは、何とかなるさぁ・・・
もともと想定していたのは、かなりしっかりした生地にモダンな北欧風のモチーフがプリントされたもの、比べて代わりに選んだのは、薄手のボーダー織のリネン。まずはバッグの形から考え直さなければ。
このシンプルな柄をどうすれば動きのあるものに変えられるのか、無い知恵を絞って辿りついたのが、放射状につなぐというアイデア。そうなると形は円形に近いものになりそう。無駄を出さないために、台形の上下を変えながら交互に生地を取っていきたいのだけれど、そうすると隣同士の柄が合わなくなる?だったら、合わないほうは集めて後ろ面にすればいいか!少しずつエンジンが掛かって来たかな。
まとめて譲り受けたヴィジューは、仕分けてみたら、形がかなり似通っており、しかも種類によって数量に差があることが判明。これは思ったより難題含み、しかし初志は貫徹したい。これらをサポートしてくれる材料を探すために再び出動。ヴィジューのレトロな質感に合わせて、天然素材やそれに近いビーズ類に的を絞り、とにかく目に留まったものは全て購入。
ブロックで形を作っていく子供のごとく、生地の上で何度もパーツを並び替える手探りの作業。くじけずに続けられたのは、精巧な織りによって生み出されたリネンの輝きと、光の入る角度によって時にオパールのような複雑な光を放つヴィジューの美しさのおかげ。こんなによい素材が集まったのだから、必ずいいものが出来るはず!と自分を励ましつづけました。
持ち手の布の中には、丸型のアクリルハンドルが隠れています。これは、まさにひらめきでしたが、薄手の生地で構成された今回のバッグの中に硬質なものが1点入ることによって形が保たれるという思いがけない効果を与えてくれました。
長いほうの持ち手は裁断した残りの生地を利用。持つ方に合わせて長さを変えることができます。
マチは正面布より明るめの色を考えていたものの、なかなか雰囲気の合う生地が見つかりません。別の目的で同時に購入したハンドステッチのこげ茶のリネンをもしや、と思いながら当ててみると、正面布のフレンチノットとお揃い感があり、ハンドルを包んだ布とも馴染みがよく・・・灯台下暗し、とはこのことかと、またひとつお勉強。
いろいろ苦労はありましたが、仕上がって気づいたことは、作業自体はとてもスムーズに進んだということ。
とにかく、いつもに比べてパーツが大きいので、広い面積を通常の何分の1かの時間で埋めることができました。
そして生地がとても扱いやすかったため、変わった形の割には苦戦することが少なかったです。
ということは、作り慣れていないから、大丈夫かしら?と思っている方にもお薦め!茶色をコーディネートしたおかげで秋の装いにも馴染みそうですから、ゆっくり楽しみながら作って頂けます。
Sサイズの私には、ちょっと大きいかな?と思いながら鏡の前に立ってみると、大きい具合がユニークで、思わずニッコリ。
角のとれた優しいフォルム、これ見よがしではない控え目な輝き、それでいてちゃんと華やかさもある、万事、マルく納まったようです。