新しいものを積極的に取り入れられないのは私の欠点のひとつ。毎月メーカーから送られてくる「新商品のご案内」を見ても、「まあ、今あるあれで何とかなるし・・・」という消極的発想が先に立ってしまいます。
朝ドラの五代友厚氏が言うところの『ファースト・ペンギン』には決してなれない、飛び込もうか飛び込むまいかと氷の上をオロオロしているうちに足の裏にしもやけを作ってしまったりするタイプ 。
しかし、そんな私にもいずれは「決断の時」というのがやってくるのです。まあ、そんな大袈裟な言葉を使うほどのことでもないけれど。
今回使ったアルミニウムの口金は、定期的に訪れる手芸店の副資材売り場で、気になって何度か手に取りながらも、自分にうまく使いこなせるかが不安でずっと見送り続けていました。
でも工夫次第では、がま口の代わりになるかもしれないという期待もあり、それを今年こそは実現してみたいと思ったのです。
事前にいろいろと調べてみたところ、自分のイメージに近い使い方が見当たらなかったので、過去に作ったがま口用の型紙を参考に新たな型紙を起こし、サンプルを製作するところからスタートしました。
それが、少し前にフェイスブックやギャラリーでご紹介した「ザリを使ったバッグ」です。口回りがキュッとしていて、下に向かっていくに従ってふっくらとした形という、がま口を使ったときと同じ雰囲気に仕上げることができました。
何のことはない、使ってみれば、がま口の100倍(!)簡単で、それでいて同じような仕上がりが期待できる。なんで今まで、という反省はひとまず置いといて、早くみんなにもお勧めしよう、と今月のマンスリーキットに取り入れることにしました。
ただ、マンスリーキットに使うのであれば、口金のサイズをもう一段階大きいものにして、バッグ自体をもう一回り大きい、実用性の高いものにしたいと考え、再度型紙を修正。
また、この時期に作るバッグで気を付けなければならないのは、素材や色に春らしい雰囲気を取り入れることを忘れないようにするということです。頭ではわかっていても、外で雪が降っていたり、自身が厚手のものを身につけていると春らしさが寒々しく感じられて、ここまでやらなくても、と抑え気味になってしまい、大体あとで後悔してしまいます。
ここは思い切って、ということで今回は白に近い明るい色をところどころ取り入れて春らしさを表現することにしました。つまり、作品の中にどのように「白」を配置するかが、ひとつの課題です。
素材においては、帯や着物といった古い和の素材とフランス・ヴィンテージのテープ類やプラチナカラーの箔が掛かったインポート生地などの洋の素材をほぼ半分ずつの割合で構成していく予定だったので、双方のバランスをとりながら進めていくという難しさがありました。
実際、生地が繋がり、形が定まっていく過程で、生地を差し替えたり、何度もビーズを付け替えた個所があります。一度決めたものを修正するのは、どちらかというと気分の乗らない、それでいてエネルギーの要る作業です。最後には、自分でも何がいいのかわからなくなってきたりするのですが、とにかく気持ちを持ち直し、自分の納得のいくものを作る、という目標に向かって地道に進むしかありません。
今回、メインとなった帯地の騎士の文様も、新たなる挑戦のひとつです。具体的なモチーフ、特に「人」の場合は存在感があるので、それをうまく周りにとけ込ませ、かつ生き生きとした部分を生かすためにビーズやスパングルの付け方を工夫し、マチ部分を敢えて左右非対称のデザインにして動きを出すことを心がけました。
持ち手は少し長めにすることで、本体の横長のモダンなデザインを強調しつつ、 肩からも掛けられるようになっています。
最後に悩みに悩んだ裏布を取り付け終わった段階でその日はエネルギー切れ。翌朝改めて目にしたバッグは、たくさんの努力の詰まった愛おしさで輝いて見えました。
おそらく、こういった経験こそが私の仕事なのでしょう。
決して軽快なペースではありませんが、良いと思ったものをひとつひとつ丁寧に形にしていく楽しさを、これからもみなさんと共有できたらと思っています。