Needlework Marble 大西淳子

Monthly Kit Archive

2015年12月のキット

着物地と織り地の
グラニーバッグ

 
  • 着物地と織り地のグラニーバッグ
  • 着物地と織り地のグラニーバッグ

作者より

 バッグを作る過程で、全体のバランスを確認するために何度か鏡の前に立ちます。

 今回も持ち手がつく前の袋状になった段階で、口のところをつまみ、制作途中のバッグを持つ姿を映してみました。

 その時の気持ちというのは、ヴィヴィットな色のバッグを持った時の高揚感とは違う、ほっとするような落ち着き。

 バッグと自分自身が一体になったような心地よさでした。

 媒体は忘れてしまったのですが、エレガンスとは?という質問に「その場の風景に自然になじむ装い」という答えがありました。深く印象に残っているのは、それがイタリア人の言葉だったからだと思います。

 イタリアといえば、まず、はっとするような鮮やかな色が思い浮かびますが、よく考えてみると、イタリアファッション界において今もゆるぎない『帝王』として君臨しつづけるジョルジオ・アルマーニのコレクションの軸にあるのは、静謐なアースカラーのグラデーション。

 『エレガンス』という言葉に戻りますが、パリ・オートクチュールメゾンの支配人でもあったジュヌヴィェーヴ・アントワーヌ・ダリオーによって書かれた同名の本を読み終えた後、私はその中のある一節を、「時々思い出すべきメモ」に書き留めました。

 「つまるところエレガンスとは、無私になった瞬間に宿るもの。その時こそ、人生でもっとも美しいときなのです」

 また、「やわらかなこころをもつことも、りっぱな公共心です」という公共広告のフレーズも最近耳にします。

 人生のなかでは、自分を強く持ち、押し出していかなければならない時もあります。でもそれ以外の時は、その役割を誰かにゆずり出来るだけまわりの人々や環境と馴染み、調和していくといった装いやたたずまいを心がける、ひいてはそのような気持ちの余裕や知恵を育んでいくことが、これから歳を重ねていくにあたって大切なことかと考えるこの頃です。

 幸いなことに、今でも何かを作っている時は楽しくワクワクする気持ちでいられるのですが例えば、かろうじてゴミ箱行きを免れたような小さなハギレや、もう作ることもないからと譲り受けた毛糸、着る人はいないけれど棄てるには惜しい衣類など、何かを作るにはちょっとエネルギーの要る~解いたり洗ったりする手間やピークを過ぎたものを生かすためのアイデアなど~素材を使う時は、決して豊かとはいえない脳の中のある特別な部分が活躍してくれているような感覚を覚えます。

 今回メインの素材として使用した着物地は、ちょうど1年前に私の講座のかつての受講生の方が譲り受けたものを、さらに私が譲って頂いたもののいくつかです。

 これらを受け取ったとき、何か特別な縁のようなものを感じていたのですが、最近、着物や日本の布について少しずつ学んでいくうちにそうではない、と思うようになりました。

 先にリメイク素材のことを書きましたが、リメイクという点において着物ほど優れている素材はないと改めて感じます。仕事柄さまざまな古い着物に出会いますが、その中で、解かれて洗い張りをされたあと、裁断されたパーツがパズルのように組み合わされ、ざっくりとした縫い目で元の一枚の反物に戻っている状態のものを目にした時の驚きは今でも忘れられません。

 着物とは、ときには元の一枚の布に戻され、時や縁を超えて誰かに受け継がれていくもの、そしてそれは特別なことではなく、そういう流れの中にあるもの、そう考えると、これらが私のところにやってきたのもとても自然なことのように感じられ、気負っていた気持ちがすうっと抜けていきました。

 いにしえの人々は、まさか着物がこんなバッグになるとは思わなかったでしょうし、これから何百年後の人々がこれを見た時、バッグって自分で作れたの?と驚くかもしれません。でも、私はそれでよいのだと思います。受け取ったものをその時々に合わせて生かしていく、それもひとつの方法だと考えます。

 ともあれ、私のところにやって来たのですから、そこは私らしくやらせていただきます!

 まずは生地合わせ。このところ重宝しているのがメッシュ素材です。今回は網目が比較的細かくしなやかな、そしてちょっとリッチな光沢のあるものを選びました。ギャザーをよせることでこの生地の特徴が上手く生かせたように思います。

 そして2種類の織り地をマチと持ち手部分に使い、柔らかな着物地を引き立て、サポートしてもらいます。

 基本はグラニーバッグ。このバッグの丸くて柔らかな形がやはり着物地には合うと思って決めたのですが、グラニーの唯一とも言える欠点が中に入れたものが落ち着かないこと。かねてより気にかかり、何とか解決策はないものかと考え続けていました。結果、たどり着いたのが、やはり「仕切り」をつけるという方法です。ただパリッとしたものを入れてしまうと何となくしっくりこないので、中に硬い芯は入れないことにして、その代わり口側にゴムを通すことによって張りをもたせます。正面布とスナップで固定することでスペースが保ちやすくなり、かつ、口の開きが気になるという点も解消できました。

 完成後、再びバッグを持って鏡の前に立ってみます。あえてボリューム感のある持ち手でしっかりと支えられたバッグは、心地よく寄り添いながらも2015年、いえ2016年よりずっと先も、持つ人のアイデンティティを静かに伝えてくれる頼もしさを湛えているように映りました。

キットについて

キット価格 12,000円(税抜)
サイズ 35×40×12センチ
キット内容 着物地8種、メッシュ、綿麻ストライプ、ダマスク柄織り地、薄手接着芯、接着キルト芯、のび止めテープ、20ミリ平ゴム、6ミリ平ゴム、プラスナップ、底板、ビーズ12種、金糸、銀糸

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