自分の作品然り、私は『生地合わせ』が好きで、スクラップブックにはバッグのみならず、洋服やインテリアグッズなど、古今東西のアイテムがコレクションされています。

　それをじっと眺めては、この生地って何者？と思ったり、このデザイナーはどういう意図でこの隣りにこれを持ってきたんだろう…と考えたり。

　けれども、たぶん、それは偶然なんだろうなぁ。偶然の必然というか、隣り合った生地同士が「そう、お前なんだよ、オレが待っていたのは！」とハグし合っている情景をついつい妄想してしまいます。

　そんな幸せでロマンチックな出会いがこの生地にもありますようにと、今年の初めに出会った玉虫色のダマスクを保管場所で温めていた数か月後、ふと立ち寄った原宿の老舗古着屋『シカゴ』で渋いブルーの羽織に目が留まりました。ここではイギリスの古いカーテンやアメリカ製プリントのワンピースなど、ユニークなものをこれまでに購入したことがありますが、着物も、いわゆる「アンティーク着物を扱う店」とは異なる独特のセレクトで並んでいます。

　ただ、このHPをいつもご覧いただいている方はご存知かと思いますが、我が家にはリビングルームに進出する程の着物類がありますので購入において、しばらくは慎重にならざるをえないという状況下にあります。

　なぜ、私がその羽織を気に入ったかというと、羽織の形をしているものの、使われている素材はおそらく洋服用の生地ではないだろうかという意外性。

　そしてこの時、内なるもう一人の自分が呟きました。

　「This is not a KIMONO！(これは日本の着物ではありません)」

　Great！Take out, please！

　こうして無事購入を遂げたのですが、作品にするにはまだ材料が足りません。ということで、ダマスクと羽織はシカゴの茶色い袋に仲良く納められ、「作品にする予定の材料」というポストイットを貼られて再び熟成の時を待ちました。

　そしてひと月ほど前、全く別の目的で購入しつつも、結局使わなくて仕舞い込もうと思っていたヴィンテージ・プリントにピンとくるものを感じ、先の2人に会わせて(合わせて)みたところ、よいハーモニーが生まれそうな予感。

　よし、6月はこれで行くぞと思い、流山の準備を進めながら、頭の片隅で構想を練っていました。

　そして先日、無事2回目のワークショップを終え、頭の中で生地合わせ(今風に云うと「エア生地合わせ」って感じかしら)をしていた時、一度展示会作品で使った赤の人工レザーを合わせることが閃きました。プランも決まり意気揚々と帰宅して、レザーを取り出してみたら、何と、思っていたよりかなり明るめ。え～っ、そ、そんな、今さら…と愕然とし、一度は諦めかけたものの使う分量と場所を変えれば何とかなるかも、と再度デザインを練り直し、挑戦してみました。

　最初の驚きは羽織にこの赤を重ねた時です。ふとした瞬間、重厚な生地がデニムに見えたのです。

　そして全体が仕上がった時、自分が予想していたのとは、全く違うイメージに我ながら呆気にとられてしまいました。

　これ、何かに似ている、そう、近年復活してきた、赤のルージュです。

　昔は赤い口紅というと改まった感じ、大人の女性という概念がありましたが、最近のファッションにおける赤のルージュは、ラッカーのように乾いていて、メイクの一部というよりは、それが加わることによってコーディネートの方向性が変わるという、アクセサリーのような役割を果たしているように見えます。

　今回のバッグも、ダマスク、羽織、ヴィンテージ・プリントといった「伝統・ドレッシー」という方向に向かっていたベクトルがこの赤が入ることによって「カジュアル・現在」という風に少し方向転換できたような気がします。

　赤いルージュ流行の兆しを感じた時は、赤どころか口紅さえ滅多につけない私にはあまりにハードルが高すぎて外野から眺めるしかないなぁと諦めていました。

　でも、今日仕上がったバッグを持って鏡の前に立ってみると、そのフレームの中に鮮やかな赤と共に収まっている自分が、艶やかなルージュで微笑む彼女たちと同じ気分を共有できているようで、じわじわと喜びが湧き上がってくるのでした。