一度「アトリエ日記」(※1)でレンミッコというユニットの『クチュール仕立ての刺繍バッグ』という本を紹介させていただきました。
パリのルサージュで学ばれたオートクチュールの技術はどれも興味深く、何度も何度も眺めてしまいます。
材料が組み合わせによって表情を変えるさまは、魔法と言ってよいのかもしれません。
紹介されているバッグはほとんどがクラッチサイズの小ぶりなものですが、特に印象的だったのが、チェーンにリボンや布を通した持ち手。うわっ、懐かしい…。もちろん今はこのデザインは定番なのですが、1980年代のバブル&円高が始まった頃、世界中のハイブランドの商品がすごい勢いで日本に入り込み、その中でもインパクトがあったのが、黒い革が通されたチェーンがアクセントのシャネルのキルティング・バッグではなかったでしょうか。
「美しさ」という枠をこえたシャネルの斬新な魅力を消化するのに、私には少し時間が必要でした。なぜこれがこんなにも人々を引きつけるのかをすぐに理解することができなかったのです。
でも自分がものを作り始めると、ココ・シャネルのデザインの根底にある、使いやすさと機能性、フェミニンとマスキュリンが混在することによって生まれる魅力などが少しずつ見えてきました。
そして、この本にも刺激を受けて、自分でもココ・シャネルテイストのバッグを作ってみたくなりました。
もちろん、本やシャネルから頂くのはエッセンスだけで、あくまでも2014年の現在にふさわしい、私らしいものでなければなりません。
これからの季節を考えると、明るい色調の爽やかな素材となりますが、生地のストックを眺めていると、ある生地に目が留まりました。
淡い色合いの中に流れるように咲く花、この大きさになると分かりにくいのですが、モアレが地模様として織り込まれ、静かな陰影を醸しています。
お店で出会った瞬間に、何かを作りたい!というインスピレーションを感じさせてくれる生地もあれば、今回の生地のように10年近くも黙って手に取られる時を待ち続けてくれている素材もあります。
長い間、その魅力に気付かなかったことを詫びるには、美しさを最大限引き出せる素材を探し出すしかありません。
ビーチガラスを思わせる角の取れたやさしいブルーを基調にヴィンテージビーズを使った刺繍で濃淡を付けていきます。
アクセントにスパングルと金糸の刺繍、そして花の茎に近い部分のふくらみは、今回紹介した本で学んだ、立体感を出す手法で刺してみました。
キルティング部分はあえてメタリックにすることで、今の雰囲気を出します。
チュールは2色使いにしてモダンな中に柔らかな空気感を差し込む。そして何より「今」なのは後ろ面のポケット。ココ・シャネルの時代には、人々が小さな電話、いえ、スマートフォンはパソコンと言ってもよいくらいですね、そういったものを携帯するとは考えもしなかったでしょうから。
持ち手部分にはシルバーコーティングが施されたグログランリボンとストレッチのレースを通し、全体的に静かでありながら上質な輝きが放たれる雰囲気があります。
チェーンの長さが変えられることで、アクティブにもドレッシーなシーンでも使っていただけます。(チェーンは1メートル。お使いになる方に応じて長さが変えられます)
これは追加の話なのですが、先日の目黒でのハンドメイドパーティーが始まる前の時間に、お客様と雑談をしていたらバッグチェーンの話になり、話はシャネルバッグへと流れ、「何だか今、ああいう感じがいいなあと思って」と言われドキドキしてしまいました!あ〜、私これから作ろうと思っているんです、それもマンスリーキット!と言いたい気持ちをぐっと押さえ(情報漏えいはルール違反ですから)、お勧めの材料屋さんなどをお教えするに留めさせていただきました。
流行も景気も全て人々の「気分」が作るものらしいので、もしかしたら80年代の再来?世代的にリンクしている身としてはつい、いろいろ思い出してニヤニヤしてしまいます。
※1 アトリエ日記は2012年から2016年まで掲載されていたコンテンツです。現在はフェイスブックにて継続掲載中です。