どの季節が一番好きかというのは、人それぞれでしょうが、春ほど、その到来が待ち焦がれられる季節は他にないような気がします。
1月の新春から始まって、早春になり、緑が濃くなる5月までの長い時間、私たちは、ささやかな春の気配をひとつ見つけては喜ぶ。三寒四温のことばの通り、行きつ戻りつしながら春はゆっくりと列島を北上していきます。
貼り替えられた真新しい障子を通して差し込む光が、だんだんと明るさを増していく、茶道を習っていた頃に目にした情景が、春を思うたびに思い出されます。床の間には、やがて『春風春水一時に至る』という掛け軸が掛ります。これは禅において、これまでずっとわからなかったことが、一瞬にして解ける瞬間のことをさす言葉のようです。確かにそういう時ってありますよね。それはそれとして、これを目にすると春到来のお墨付きをもらったようで、なんだかほっとしたものでした。
また、宿題の出ない春休みは、何とも言えない解放感と共に記憶に刻まれています。私が小さい頃はビニールで編まれた小さな買い物かごのようなものを女の子は持っていて、それを携えて土手に野の花を摘みにいきました。もわんとするような土の匂いと湿り気、タンポポの温かな香り、おもわず食べてみたくなるような麦の若々しい芽、オオイヌフグリの青やスミレの紫。野原を構成するのは、1センチにも満たない花や、地を這うように生えた草花の黄色、ブルー、むらさき、グリーンの彩。春が近付くと、そのパレットを使って、ふと何かを作ってみたくなります。何にしようかと迷った結果、以前、催事で出会ったビーズアクセサリーの先生が持っていたバッグを思い出し、挑戦してみることにしました。サンプルは黒1色だったのですが、2階建てのようなデザインの面白さを生かして、上下のデザインを微妙に変えてみました。下側のみにキルト芯を入れて張りを持たせることで、置いた時に、しなやかな上部がくたっとして、少し中に納まる感じがとても好きです。両脇にポケットがついているので、どのサイズでも使い勝手がよいと思います。
今回は刺繍がポイントですが、どれも基本的なステッチの組み合わせなので、初めての方でも大丈夫ですよ。刺繍と言っても、緻密に、正確に刺して柄を描き出すというものではなく、多少曲がったり、ラインから外れても、まったく問題のない自由度の高いデザインです。まあ、大変だったら、なくてもいいけれど、それが加わった瞬間、ふっと生地の表情が変わるんですよね。周りの空気が動き出すような、生地の温度が少しだけ上がるような楽しい感覚を是非味わってほしいです。
内側の生地は、空や小川の水を連想させてくれる爽やかなブルー&グリーン。メッシュのポケットが付きます。全体を引き締めるのが、デジタルなカモフラージュプリント。地模様がヘリンボーンになっている凝った生地です。
こちらを使ったショルダーベルトが作れるキットは別売りになりますので、必要な方は備考欄に「ベルト希望」とご記入下さい。
春の香り満載のバッグを持って最初に出かけるのはどこでしょう?何だか旅行にも行けそうな大きさ?もしかしたら、マンスリーキット史上最大のバッグ!?