今回の生地を見つけたのは、半年ほど前のことです。この色と柄、私のストライクゾーン。
「この生地を買って帰るまでは、一歩たりともここを動くことはできない!」
気に入った素材を見つけた瞬間は、いつも異様な興奮状態に陥ってしまいます。通常の生地幅の倍近くあるフランス製のその生地は、畳まれて2重にしてもらった紙袋に収められると、ずっしりと重く、しかしその重ささえが嬉しく感じられる帰り道でした。
私が子供の頃は、ヨーロッパは手の届かないもの、本やテレビを通して眺めるもので、まさかそこを訪れる日が来るなんてことは想像もできませんでした。挿絵に描かれた王宮の壁紙やカーテンを流れるように彩るアラベスク模様、宝石のような果物がこぼれんばかりに盛り付けられたフルーツバスケット・・・繰り返し目にしたそれらのモチーフは鮮明に記憶の中に留まり続け、今でも、そういう柄に出会うと、変わらぬときめきを覚えます。
ひと月ほど前、生地の棚から他の材料と一緒に取り出して、改めて眺めながら、何気なく傍にあった黒のリバーレースを乗せてみました。お互いがお互いを引き立て合う思いがけない光景。すぐに最初に合わせる予定だった生地のグループからレースを外し、この生地と一緒にして別の袋に入れました。ん?この行為はまるで、お芝居に出てくる、若者の恋路を邪魔する年増女!?
そ、そんな・・・こうなっては、この汚名を返上するためにも、いいものを作らなければなりません。
素材を眺めながらイメージを固めるためのいくつかの条件を挙げていきます。
1.軽さを保ちながら、ハリ感のあるデザインにする
2.マチを狭くしてスリムな感じを出しつつ、ある程度の容量は確保する。
3.持ち手もあまり太くせず、華奢なイメージで。でも持ちにくいものはNG。
4.色はできるだけ2色でまとめる。
といったところでしょうか。
1.については今回新しい手法を考えましたので、レシピを参考にして下さい。
2.は正面布の底の角にダーツを取ることで、実際にものが入ってもバッグのフォルムにひびきにくくなっています。マチポケットはありませんが、後ろ面のファスナーポケットの中にもう一つ小さなポケットが仕込まれていて小さいものと大きなものを分けて入れておくことが出来ます。
3.は丸紐を中に入れて持ちやすくし、ハリを持たせることもできました。縫い込むのが難しい丸紐の持ち手をすっきり納める方法も今回ご紹介しています。
メインで使ったレースが繊細でありながら存在感も持っていますので、ビーズもジェット(黒玉)を思わせるマットなものを選んで、ヴィクトリアン風に仕上げました。ポイントになるチャームや、ボタンで作った底鋲、そしてファスナを黒にして全体を引き締めます。
通常は、中のものが見やすいように裏布を明るい色にするのですが、今回はやはり黒。入れ口が大きく開きますので、黒でも大丈夫です。
ちょっとおしゃれをして出かけたくなる機会が増えるこれからのシーズンに相応しいバッグに仕上がり、無事今年を終えることができそうです。
来年もまた、金縛りにあうくらい(!)素敵な素材との出会いがあることを、そして、そう言ったこと含むもの作りの楽しさを皆さんと共有できる素敵な1年となりますことを願っています。