夕飯の片づけを終えたテーブルで、デザートのフルーツを摘みながら新聞を広げる時間が私にとって一日の区切りのようなもの、もう10年以上。そして紙を捲る音を聞きつけて、どこからともなくやって来た飼い猫が、読もうとする記事の上にどっしりと陣取って毛繕いを始めるというのが1年前からの日課です。娘から抗議を受けるほど猫に甘い私は、まあ新聞は後でも読めると諦め、神様が作った世にも美しい文様が、撫でるたびに動くのを毎回飽きもせず眺めながら、次第に疲弊した心身が充電されていくのを感じるのです。28パーセント、42パーセント、65パーセント・・・疲れた視覚や聴覚はオフにして、手のひらの感覚だけに神経を集中。私が寛いだ時を見計らってやって来るところを見ると、猫も何か人間の発する気を敏感に感じ取っているのでしょうか。とは言っても彼らは常にマイペースですから、こちらの充電が不十分でも飽きればさっさと立ち去ってしまいます。
なんだか関係ない話が続きますが、ついでにもう少しお付き合いください。
9月の最初の三連休の、あの台風が去った日曜日、久しぶりに家族で原宿に行きました。娘がパスケースを買い替えたい、ひいてはキディーランドに行ってみたいと。まあ、久しぶりに覗いてみるのも悪くないと彼女に付き合って上から下まで見て回りました。ディズニー、サンリオ、ジブリにスヌーピーと、ありとあらゆるキャラクターが揃っていて、アイテムもiPhoneケースから文具までさまざま。その色合いやデザインから、これは明らかに大人狙いじゃない?と思えるものもたくさん。事実、真剣に吟味する若い女性や、一つ一つにコメントを付けながら楽しそうに眺めている2人組の外国人男性なども見かけました。そしていくつもいくつも見ているうちに、これらが単なる雑貨ではなく、もっと大事な物、そう私にとっての猫の背中同様、触れるだけで、それが身近にあるというだけで、ほっとできる、気持ちが安らぐといったかけがえのないものなのではないかと感じ始めたのです。バッグほど人目に付かないから多少遊び心があっても大丈夫、でも小さい分、そこにはそれを選んだ人の感性が凝縮されているのかもしれません。
自ずと思いは自分の仕事へと繋がり、小物作りに対する新たな使命を感じつつ(キディーランドでちょっとテンション上がった?)原宿を後にしたのでした。
ご注文のお財布をかなり作っていたので、久しぶりという気がしなかったのですが、マンスリーキットでは丁度1年ぶりなんですね。今回は前回とイメージを変えてグッとシックな色とデザインにしてみました。
メインとなるイタリア製のテキスタイルは10年くらい前に入手したものです。分量が少ないので何に使えば良いのかわからず保管していましたが、 ウールの織り地で意外に丈夫だとわかったので使ってみました。ピンクのラメ糸が織り込まれているのですが、ピンクの色と地のウール糸とのバランスが絶妙で、このあたりがさすがイタリアです。誰かが持っていたら、私、絶対に2度見して、素材確認するでしょうね。そして今回どうしても使ってみたかったのが、ポイントとなる縫い付けパーツです。少し前までは、ヴィンテージでないとなかなか素敵なものは見つけにくかったのですが、最近はデコの流れでしょうか、かなり種類が増えたように思います。うまく使えば、これ一つで細々としたビーズ刺繍を頑張ったくらいのボリューム感とグレードを出せます。
テーマに合わせてアンティーク風にパーツの回りをビーズで縁取ってみました。この技も是非今回マスターしてみて下さい。内側はエスプレッソやカプチーノに合いそうな、チョコレートが沁みたスポンジにラズベリーやカシスのムースやソースが挟まれたスイーツのイメージで色合わせ。(お財布開けるたびにケーキが頭を過ぎる?既に私はそうなっています、危険・・・)そして極め付けは、カードやちょっとした小銭が入る後ろ面のポケットに付けたアクリルのチャーム。この色と透明感、果物の砂糖煮、コンフィチュールに見えませんか?(あれは本当にきれいよね、まさにお菓子の宝石!)なんて何だか途中からデザインのコンセプトが大いにそれてしまった感がありますが、私の中には、『よいデザインは美味しそうに見える』という隠れた定義がありまして、それに則って無事納めて頂ければと思います。
最後まで混乱、錯綜した文章になってしまいましたが、最後の最後にひとつだけ。このお財布が完成したら手に持ったところを是非鏡に映してみて下さい。タッセルやチャームの揺れがとっても素敵な女性を演出してくれます。間違いなし!