仕事柄、生地屋さんをよく覗きますが、昔に比べて商品が店頭に置かれている時間が短くなったような気がします。

　半年後ならともかく、ほんの1か月ほど経って同じものを探しに行ったら、完売しました、入荷未定です、と言われた経験も一度や二度ではありません。生産するほうは販売期間を限定し、販売する側は、売り切れる量しか仕入れないという方向性に変わってきているのでしょうか。そんなわけで、気になる生地や材料があれば、とりあえず買っておくというふうに心がけるうちに、一度に購入する量は自ずと多くなり、買い物が終了するころには、「紙袋、二重にしましょう」とお店の方の手を煩わせてしまう始末。

　その日も、もうこれで打ち止め、と思った後でそのゴブラン織りを見つけ、一度は今度にしようと思ったのですが、売り切れトラウマが頭を過ぎり、最終的には買って帰りました。現代もののゴブラン織りはヴィンテージに比べて織り糸が太く、色数が少ない分、どこか繊細さに欠け、あまり好みではないのですが、今回のものは、確かに全体にざっくりとしているけれど、何となく醸し出される雰囲気に惹かれて珍しく購入してみました。丈夫さは間違いないので、サブバッグなんかいいかも。薔薇だから5月のキットにしようかな、なんて帰りの電車の中で何となく考えていました。

　それからひと月ほど経って、吉祥寺で合いそうなブレードを見つけ、少しずつ具体的なイメージが固まってきたのですが、肝心の組み合わせる生地が決まっていません。が、ふと、全く違う目的でまとめ買いしたインテリアファブリックの中の一つが合うかも、と思い、翌日、自宅に置いてあったそのマゼンタの生地をもっていってみたところ、分量を考えれば何とかなりそうだったので決定。あとはアトリエにあった生地を何となく合わせて、意外とスムーズに揃いました。

　ゴブラン織りのモチーフが大きく、織り糸が太いため、ビーズでは埋もれてしまう可能性があったので、スパングルをメインに使うことにしました。2月に知り合いの卸先から、入荷案内を頂き、その時は特に使う予定はなかったけれど、珍しいから、好きだからと買って置いた系統の似た色が微妙なグラデーションを出すのに大いに役立ちました。

　予定通りに組み立て行き、表面がほぼ完成という段になって、思いがけないことが起こりました。どう見ても、サブバッグという感じではないのです。メインのバッグの顔をしているのです。まあ、そうなってしまったら喜ばしいこととして受け入れるしかないのですが、本来、お弁当や本を入れることを想定してシンプルな方向で考えていた内側を変える必要があります。メインのバッグとして使いたい方(はい、私です)のために、少し便利なポケットを加えなくては、ということで、急きょメッシュのポケットを見やすい上部に加えました。そして底にはデッドストックのボタンを2個重ねて、底鋲を兼ねたアクセントに。これも数年前、大和の骨董市で半ばお願いされる形で買わされ、大きさ違いの同じ種類のボタン、こんなにたくさんどうしようと思っていたのに、こんな形で役立つなんて！

　本当に今回は、それぞれの材料がお互いの磁力のようなもので引きつけられるように集まってきて、気が付いたら私のイメージを超える形で仕上がっていたという、不思議な体験でした。凝った仕掛けもなく作られたバッグは、素直に育った女の子のようなすっきりとした、穏やかな表情をしています。きっと使う人を優しい気持ちにして寄り添ってくれることでしょう。

　最後に少し付け加えです。

★ゴブラン織りの柄は2種類になりますが、どちらも同じ雰囲気で、それぞれに実物大のカラーコピーをお付けしますので、 柄行はお任せください。

★また、持ち手部分はご希望に応じてあと10センチまで長くできます。