アメリカの古い家の屋根裏で、その布はどれくらいの時間、眠っていたのでしょう。もう部分的には薄くなり、紺色の横糸が擦り切れている部分もあります。
装飾品として飾られる、何かを守るためのカバーとして使われるという役割を果たすには十分とは言えません。かといって、打ち捨ててしまうには惜しいと思わせる何かが、そこにはあるのです。
『ヴィンテージ』という言葉がすっかり定着し、自分でもよく使うのですが、今日改めて調べてみると「ただ古いというだけではなく、特別な価値があるもの」というようなことが書かれており、なるほどと肯きました。
ただ、この価値というのは相対的なものであって、絶対的な定義があるわけではありません。それでいて、意外と多くの人が同じものに価値を見出すのです。
流行っているということで関心を持つ人もいるでしょうが、やっぱりなぁと思わせるものに高い値段がついているのを見ると、これだけ全てが明白な時代のなかで言葉では表現しきれない、理屈では説明できないものに惹かれていく人間の感性は、やはり素晴らしいと思います。
そしてさらに興味深いのは、最近はそれらを見て愛でるだけでなく、新しいものとミックスしたりして生活の中に溶け込ませていく流れがどんどん大きくなってきていることです。特にファッションにおいては、ひとつのスタイルとして確立された感さえあります。そしてそれらは単なる足し算で終わらず、化学変化を起こして、見ている私たちに刺激や驚きをもたらします。
ファッションとは本当にユニークで、そして生き物のように時間や空間の中で常に変化を続けているものなのです。
今回このヴィンテージファブリックを使うにあたって、アーリーアメリカンの素朴さを生かし、ナチュラルにまとめる予定だったのですが、その方向で進めていくと何かピンとこないのです。今の空気の中では大人しすぎると言えばいいでしょうか、せっかくの生地の魅力が奥に入り込んでしまうな気がするのです。そこで少し考えてバッグの要とも言える持ち手部分に、黒に赤の大きなドットという、ちょっとポップな生地を持ってきてみようと思いました。
まずは口布とポケットの口布に使ってみて様子をみます。何となく全体に動きが出てきました。そしていよいよ持ち手に持ってきてみたところ、正直、ちょっと強い。
悪くはないんだけれど、その他の部分とのコントラストが強すぎる。でもこれくらいが好きな人もいるし、私もいいかなとも思うんだけど…と迷ったところで、試しに裏にしてみました。そう、このドットの生地、実はリバーシブルで、裏が同色のピンドットなんです。不思議ですよね、同じ配色なのに、裏は遠目で見ると中間色のこげ茶に見えて、少し馴染み易くなる。また口布の水玉との強弱によって全体に奥行きも生まれる、ということで結果このような組み合わせに納まりました。
そう、これはひとつのスタイルです。もしかしたら最初の大きいままの水玉のほうがパンチが効いててよかったんじゃない?と思っている方もいらっしゃるでしょう。また、口布をピンドットにして、持ち手を大きい水玉にしたら?なんていうのもありですよね。なかなかない機会ですから、キットを購入された方にはいろいろと考えていただけたら嬉しいです。そして是非御自身に一番似合うバランスを見つけて下さい。
迷いに迷って、やり直しても構いません。それこそがファッションの楽しみなのだと思います。
久しぶりの大きめバッグということで、使いやすさにも出来る限り工夫を凝らしました。
サイドと裏のポケットはもちろん、内側には仕切りにもなるファスナーポケットを付けました。
そして、内側を外側より少し小さく仕上げています。底の面積と入れ口の大きさは外側と同じなので、全体的な容量はそれほど変わりません。ふっくらとしたフォルムを保ちながら、バッグの中のものがすっきりと納まるこの形、自分ではかなり気に入っています。