ある言葉を頭に思い浮かべるとき、無意識に色が浮かんでくることがあります。私の場合、たとえば『愛』は赤、『別れ』は芥子色に近いカーキ、『東京』は群青色で『京都』は藤色といった具合です。純粋なイメージと言うよりは、視覚的情報によって何度もインプットされるうちに決まってしまったような気もするし、過去の記憶と関わりがあるものもあるように思えます。また私たちが言葉を音だけで捉えるのではなく、漢字を通して目でも認識していることがこのような特殊な感覚を持つ所以かもしれません。
そしてその『色』に、温度や質感、香りを感じることはありませんか?色を選ぶとき、見た目と同時にそう言ったものを求めていることはないでしょうか。
今回私が求めたのは優しいトーンのピンクと水色です。生まれたばかりの子供が初めて触れる衣類のような柔らかな手触り、無垢な石鹸の匂いがただようような懐かしさを持つ色に触れていたいと思ったのです。
理由は今年の長い長い夏です。朝目覚めた時、晴れているほうが嬉しいのですが、どうでしょう、ここまで燦々と眩しい日差しが降り注ぐ日が続くというのは…突き刺す日差しで体の内側までもが軽い火傷を負ってしまったかのような痛みと疲労感が日々募るのを感じます。そして心はそれを癒してくれる色を求めています。そういえば和菓子や昔ながらの砂糖菓子もこういった色をしていますよね。特別なフレーバーは不要、その柔らかな色を確かめて、口に入れて目を閉じれば、菓子が溶けていくように心も解けて行く、砂時計感覚の時間の経過。重さのある秋の色を楽しむ前に一息、こんな色で小休止を取ってみるのも悪くないと思うのです。
さてさて、色の話が長くなりましたが、今回のバッグの注目点はもう一つ、内側の仕切りになったファスナーポケットです。
実は以前にもこのスタイルをキットとして提案したことがあるのですが、今思えば、妙に難しく捉えていて、それ以来とても便利な形であるものの、これを作ってもらうのはちょっと…と暫くためらっていたのです。しかし少し捉え方を変えて、率直にいうと、少し手を抜いて(!)、ポイントさえ押さえれば問題なく収められることがわかったので、満を持しての登場となりました。マチの広いバッグに仕切りがひとつあるだけで、仕分けがとても楽になり、バッグの形をホールドする役目も果たしてくれます。
シーンに応じていろいろなバッグが持てるのは、女性ならではの楽しみですが、この形は間違いなく高い頻度で活躍してくれるもののひとつでしょう。
使い始める瞬間からバッグにはさまざまな記憶や思いが刻まれます。
おろしたての日のときめきや緊張感、詰め込まれた小物たちによって生まれる景色を上から眺める時の充実感…そしていつしかフォルムもしっくりと私自身に馴染むほどに時間が経過する頃、色合いはもっと深みを帯びてくるでしょう。
こうして生まれる親密さこそ、バッグが女性を虜にしてしまう理由のひとつなのかもしれません。