「デザインはどのようにして考えるのですか?」という質問をいただく時、材料からインスピレーションを得て、と答えさせていただくことがありますが、今回はまさにそれです。
黒に紫が沈んでいるような、着物独特の色香漂う地色。そこに描かれたまあるい蕗の葉っぱの大らかな図柄と色合い。この日の骨董市めぐりはこの着物に出会えただけでも十分収穫があったと言えるでしょう。
何度も眺めながら、作品の構想を練ります。この雰囲気を生かすのには、やはり大きなバッグのほうがいいだろう、そして今回はあえて『和』テイストの強いものにしてみたい。
ノートにメモを取りながら布を折ったり、ビーズを乗せたりして楽しいような、苦しいような試行錯誤が繰り返されます。
いろいろ考えた末、着物の柄を引き立てる地模様のような刺繍を全体にいれてみようと思いました。
モチーフは太陽、月、星など自然に関わるものを抽象的に表現しています。(キットには刺繍の実物大コピーと詳しい解説がついています)
1週間前なら、首周りに汗をしたたらせながら刺していたビーズも、じっくり取り組める気持ちになれたことで、秋の到来を改めて実感しています。
よく言われるように、例年になく自然災害に見舞われることの多い年ですが、それによって、自然と自分たちの生活の関わりをいつも以上に考えさせられる年でもあるように思います。
確かに恐ろしいこともたくさんありますが、一点の陰りもない満月の精錬な輝きや、疲れた頬をひんやりと撫でてくれる秋風の心地よさに触れる時、間違いなく自然の大きな懐に抱かれている安らぎを感じるのです。
災害という厳しい形で気づかされることはとても残念ですが、合理性、経済優先の中で忘れ去られようとしている自然と共存するための先人の知恵や美意識などを、もう一度思い出してみる時が来たのかもしれません。
正面からだとあまり見えなくて残念なのですが、バッグの底に使ってある織地は、『メイド・イン・ジャパン』をコンセプトに生地を作り続けているメーカーによって、昔ながらの工場で生産されたものです。この色の深さは「和」だし、模様も幾何学的でモダンに見えるけれど、やはり「和」なんですよね。
袋織りになっていて、隠れてしまうのがもったいないくらい裏もきれいです。
ただ、これだけでまとめてしまうと、ちょっと寂しいので、スエードのフリンジをバッグのおしりあたりに遊びで入れてみました。
かなり深さのあるバッグですので、中が見やすいよう、内側は明るいからし色にしています。
長かった夏に押されて足早に過ぎて行ってしまいそうな今年の秋、ひとつでも多くの自然の移ろいに目を留める気持ちの余裕をバッグと共に携帯できることを目標にしたいと思います。