今回の展示会においても、古い素材を使った作品をいくつか作りました。
それらの素材と出会った時にはすでに長い時間が経っており、さらに私が所有してからの時間というのも加わります。どんなふうに使えばこの素材を生かすことができるのか、箱から出しては眺め、再び仕舞う、そして、やっとそれらを自分の満足のいく作品に作り上げることができた時は、大きな喜びもありますが、また次の時間へと受け継ぐという責任をはたすことができた、という安堵感のほうが大きいのかもしれません。
今回の展示会でも、これまでご購入いただいたバッグたちに懐かしい再会を果しました。気に入っていただき、大切に使ってもらっている様子が伝わってくるとじんとします。
このたびご紹介するバッグに使われている素材も100年以上前にフランスで作られたもので、今では希少なシルクのベルベットを、金属を使用したヴィンテージならではの金糸で織られた帯が取り囲んでいます。そこに漂う静謐で深い輝き、光の角度によって色調が変化するさまは見ていても飽きることがありません。
その上にさらにヴィンテージレースを重ね、ビーズ刺繍を加えることによって静けさの中に動きが生まれます。
後ろ面にグレンチェックの別珍を配することによって、程良いカジュアル感が生まれ幅広いコーディネートが楽しめるデザインにしました。
A4サイズもきれいに収まり、開き口が両開きのファスナー仕様になっていますので使い勝手においても優秀なバッグです。
素材に出会ってから7年近く、時折思い出したようにあれこれデザインや組み合わせを考えてきましたが、今回ようやく形にすることができました。
私の手から次の方の手に渡ったバッグが、どんなふうに寄り添いながら、更なる時間を重ねるのか、あれこれ想像してみるのもまた、楽しいひと時なのです。