この布に出会ったのは、今年2月の横浜アリーナのアンティークフェアーでした。
初めて覗いた西洋アンティークのブースの、オーナーの背後の棚の上で威厳を湛えながら鎮座しているその布を手にとってみたいという気持ち、でもあの場所にあるということは、高価なものに間違いない、と躊躇してしまう気持ち…他のものを物色しているふりをしてしばらく悩んだ末、思い切って尋ねてみました。
その瞬間、自分とほぼ同年代と思われる女店主の、それまでの気前のよかった調子は消え、「これだけは、まけられないんですよ…」と懇願するようなまなざしが向けられました。
しかし、私の気持ちは、その布を広げてもらった時にもう、決まっていたんです。
たとえいくらであっても、買おう、と。
この時代の布(100年はおそらく経っているでしょう)をバッグ1個が作れるくらいの分量、良好な状態で求めることすら難しいのに、小さなテーブルクロスほどの大きさが完璧なコンディションで残っていたなんて、これは奇跡と言っていいのかもしれません。ここで買わなければ100パーセント後悔するでしょう。
そして、とうとう手にいれた、美しい布の手触りを確かめながら、これを今年最後のキットに使おうと決めました。
縦糸はボルドーカラーの木綿、そして金色に輝く横糸は麻です。麻そのものが時代を経て自ら光沢を湛えているのです。
時折布を取り出しては眺めながら構想を練り続けてきたのですが、つい最近、紺色とのコンビネーションを思いつきました。ヨーロッパのトラディショナルな色合わせこそ、この布に相応しいと確信したのです。
形は小さなボストン型。このところ、街中やウインドウで小ぶりなボストンバッグをよく目にします。
今年のクラシカルなファッションと相性がよいのでしょう。
持ち手はシックな茶にしようか思ったのですが、12月はやはりこれくらい遊びのある色にしたほうが心も華やぎます。
格のある布にビーズを加える時は、そのものの良さを台無しにしないよう、いつも以上に気を使いますが、今回は、さすが同郷、フランスのヴィンテージビーズとの相性もよく、モチーフをうまく引き立てることができたと思います。
今年の最後にこのキットをお届けできることを心から嬉しく思っています。
また、私自身、一年の締めくくりとして、悔いのない作品を作ることができたことにささやかな充実感を覚えています。
自分の好きなものを好きなように作っているだけではありますが、もし、誰からも支持が得られなかったら前に進む気持ちは持てなかったと思います。自分がデザインするものを「作ってみたい!」と言って下さる方々の声に押されて、よし、次はもっといいものを作ろう、という前向きな気持ちを持ち続けることができました。
このことに心から感謝しつつ、来年は、さらにパワーアップ!?
皆さまにとっても、私にとっても更によい年になりますよう願っています。