甲状腺の病気は珍しいものばかりではありません。その症状は多彩で忍び足でやって来るものが多く、罹っているご自身様が検査結果を見て「こんな病気も甲状腺が悪いと起るんだーちーともしーらなかったわー」と共に喜び合う日が来ることをたのしみにしております。
表1の「甲状腺の病気と鑑別が必要な若干の病気」を参考にご覧ください。

  甲状腺機能亢進症 甲状腺機能低下症
心疾患 心房細動 心不全、徐脈性不整脈
精神疾患 神経症、躁病 躁鬱病、認知症
悪性疾患 悪性腫瘍 悪性腫瘍
神経筋疾患 周期性四肢麻痺、重症筋無力症 筋力低下をきたす疾患
消化器疾患 大腸疾、吸収不良症候群 大腸疾患、吸収不良症候群
肝胆系疾患 慢性肝炎 慢性肝炎
内分泌疾患   副腎皮質機能低下症
産婦人科疾患 月経異常 月経異常

表1

甲状腺はどこにあるの?

(図1)のように首の前の皮膚と軟骨の間にあり、異常のない人では分かりにくいですが、腫れ、瘤、を触れるときには甲状腺の病気?と診察を受けることをお勧めします。

甲状腺はどのような働きをしているの?

甲状腺ホルモン(T3、T4等)を合成し、血液中に分泌されると全身を巡り全身のDNA代謝を制御しています。
一方このような甲状腺の働きは下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって調節されており(ネガティブフィードバック機構)、甲状腺ホルモン軽度でも過剰になれば(基準値内でも)、TSHは低下し、低下すれば上昇するので、視床下部・下垂体系が正常であれば、甲状腺機能異常を発見する最も感度の高い検査は血清TSHの測定であるとされてます。

また、甲状腺から分泌される主な甲状腺ホルモンはT4であり、T3の大部分はT4の脱ヨード反応で生成されるので、血中ホルモン濃度の指標としてはT4値、特に遊離T4が有用である。
また、T3は全身状態が悪い場合低下するため(Low症候群)、甲状腺機能異常を疑った場合、先ずTSHと遊離T4を測定されることが重要であるとされます。

甲状腺機能亢進症と低下症の状態の違いを比べてみよう

  甲状腺機能亢進症 甲状腺機能低下症
内科、
循環器症状
脈が早い、ドキドキする 脈が遅い心臓が大きくなる
消化器症状 食欲亢進、体重が減る
排便回数増加、下痢をする
便秘、体重が増える
神経筋症状 手が震える
周期的に手足がしびれる
健反射亢進
筋力低下、健反射低下
皮膚症状 汗が出る、皮膚湿潤 脱毛、眉毛が減る
顔がむくむ、皮膚乾燥
婦人科症状 月経異常(無月経が多い) 月経不順、乳汁が出る
精神症状 落ち着きのなさ、イライラ感
不安感、不眠
気力低下、うつ状態
記憶低下、鈍くなる
その他 倦怠感、微熱 倦怠感、低体温、寒がり

 

甲状腺機能亢進症の病気

■ パセドウ病
1)どんな病気
び慢性甲状腺腫を伴った甲状腺中毒症(甲状腺ホルモン過剰)。TSHレセプターに対する自己抗体により甲状腺が刺激され、甲状腺が肥大し、甲状腺機能亢進症を起こす疾患。

2)病状
20~40歳代の女性の多い 男性比 1:4~7
・三大徴候(Merseburg 三徴)
(1)甲状腺腫:びまん性、表面平滑、軟、可動性良好、bruit(+)
(2)眼球突出
(3)頻脈、時に心房細動

3)検査
(1)hyperdynamic state (高心拍出量状態)
収縮期高血圧(拡張期血圧低下)
(2)T.chol↓、ChE↑、FFA、ALP↑、Ca↑、Wbc↓
(3)高血糖(Oxyhyperglycemia)
(4)T3(トリヨードサイロニン)↑、T4(サイロキシン)↑
FT3、FT4、TSH、TRAb(TSH受容体抗体)96~98%が陽性
抗甲状線抗体(抗サイグロブリン抗体、抗TPO抗体)

4) 合併症
(1)甲状腺中毒性ミオパチー…近位筋委縮、男に多い
(2)周期性四肢麻痺…過食、過飲後に下肢脱力四肢麻痺が起る。
発作時には血清K値が低値になることが多い。
(3)甲状腺クリーゼ…甲状腺機能亢進症の急性増悪。
不完全な治療、甲状腺機能亢は進状態での手術、感染、ストレス、妊娠中毒症などにより誘発される。時に死に至る危険性あり要注意。

5) 補足事項
新生児甲状腺機能異常症…母体からTRAbが胎盤を通じて児に移行し出生後一過性で、亢進期には適切な治療が必要である。その他児の甲状腺を抑制し新生児甲状腺機能低下を引き起こす抗体もある。

治療:甲状腺機能検査の結果を待たずに、直ちに治療開始

【ショックに対して】
気道確保、血管確保(輸液)、酸素投与、ステロイド投与
【甲状腺中毒症状に対して】
抗甲状線薬プロピルチオウラシル(PTU)大量投与。(T4-T3を抑える)無機ヨード(ルゴール)
【高度な洞性頻脈に対して】
B-blocker(低伯出性心不全の場合b-blockerは使用しない。

極度の甲状腺機能亢進症の患者が、高熱に伴いながら不穏状態に陥った場合は甲状腺クリーゼの可能性をつねに念頭におかなければならない。甲状腺クリーゼでは、必ずしも甲状腺ホルモンの値は著名な高値を示すとは限らない。

治療

(1) 抗甲状腺薬治療:使用される下記の2薬剤は甲状腺ホルモン阻害剤で、1年~数年継続治療し中止する。
1.チアマゾール
2.プロビルチオウラシル
(2) 甲状腺亜全摘出術:抗甲状線薬禁忌例、甲状腺腫が大きく、抗甲状線薬治療でTSHレセプター抗体が減少しない若年者など適応。

田嶋医院
田嶋 英夫