心臓の中の心房と心室の境界と、血液が心臓から出ていく出口に、それぞれ切れ目のある膜がありまして、これを弁膜と言いますが、この弁膜が血液を送り出す時に開いたり、また逆流防止の為に閉じたりします(図1)。
その結果、血液は各部屋の中を順序良く流れて、2か所の出口からそれぞれ全身と肺に血液が送られます。そして、この弁膜が変形して伸びたり硬くなったりすると、弁膜の開放や閉鎖がうまくいかなくなって、心臓の中や出口で血液の流れが悪くなり心雑音が聞こえるようになります。
その結果、心臓の中で血液がたまって心臓が腫れてきます。さらにひどくなると息苦しくなるなどの心不全症状が出て来て、日常の生活に支障が出てきます。

(図1;ライフサイエンス社より資料提供)

心臓弁膜症になる主な弁膜の一つに左心房と左心室の境にある僧帽弁があります。これはお坊さんの帽子のよう見えるからそう名付けられました。もう一つは左心室から大動脈に血液を送り出す時に開く大動脈弁です。

まず僧帽弁でよく見られる弁膜症としては、僧帽弁が完全に閉じないで、血液がその隙間から逆流して、血液の流れが悪くなる僧帽弁閉鎖不全症(逆流症)があります(図2)。
次は大動脈弁の弁膜症で、僧帽弁と同じに、弁膜の閉じ方が不完全で血液が逆流して戻ってしまう大動脈弁閉鎖不全症(逆流症)と、そして大動脈の弁膜が硬く変性して、弁の開きが悪く、その結果出口が狭くなり、心臓からの血液が十分外に出ないようになる大動脈弁狭窄症があります(図3)。

(図2;ノバルティス社より資料提供)
(図3;日本心臓財団より資料提供)

これらの弁膜症のほとんどは、軽くて自覚症状が無い場合が多い為に、禁煙を実行したり、お酒を控えたり、血圧やコレステロールそして肥満などの生活習慣病の治療をしつつ、普段の日常生活で無理をしないで、定期的に心臓の検査をしていけば良いと思われます。

しかし、急性心筋梗塞や心臓の細菌感染症などで、突然僧帽弁が変形して弁がうまく閉じずに血液の逆流がひどくなった時、これを急性僧帽弁閉鎖不全症と言って、急に呼吸が苦しくなります。
次に心臓から出たすぐの大動脈が突然裂けて(大動脈解離と言います)、大動脈弁が開いたままになったり、また細菌感染症の為に大動脈弁が急に変形して、閉鎖がうまくいかなくなったりして起きる急性大動脈弁閉鎖不全症があります。
これらは逆流する血液量がとても多く、放置すると生命の危険にかかわりますから、専門病院で心臓の精密検査を受けてから、弁膜の形を正常に整えたり、悪くなった弁を他の代用弁に置き換えたりするような外科的手術が行われます。

一方、急性に出現するのではなく、慢性的に存在する弁膜症の場合には、すぐに手術とはなりませんので、安心して下さい。呼吸困難や息切れ、動悸、胸痛、気が遠くなって失神するなどの明らかな心不全の症状が無ければ、まず安心です。

さて、一般的に心臓弁膜症は、胸の症状があって医療機関を受診して初めて発見される場合と偶然検診などで心雑音があると指摘されて発見される場合があるようです。これらは慢性的に経過しているものが多く、まず心臓弁膜症の正確な診断とその病気の程度を知る事が必要です。

心臓の検査には皆さんご存じの心電図と胸部レントゲン写真そして最も大事な検査として音波を使う心エコー検査がありますが、出来れば専門医から実施してもらう方が良いでしょう。これらの検査の結果と患者さんの症状から弁膜症が軽いのか、重いのかを判定します。

当然ですが、弁膜症の程度が軽くて症状の無い方は内科的に経過を診ます。
しかし、明らかに強い心不全の症状がある方や症状はあまり無いが心臓の機能が明らかに低下して、いつ心不全症状を起きてもおかしくない方は重症と判定され、将来、心臓の機能がさらに悪化して、日常生活を過ごすのにひどく支障が出たり、重い症状が出て緊急入院したりする可能性が高まりますから、手遅れにならない内に外科的治療が今必要かどうかを、皆さんと専門医が一緒に考える事になります。

症状がある程度あっても、内科的治療(生活指導やお薬)を早めに始めたほうが病気の進行を遅らせて、心機能や心不全症状をある程度改善させますので、まず内科的治療を始めてから、心エコー検査による心機能の評価と自覚症状の変化を定期的にチェックしていく事が重要と思われます。

もりハートクリニック
森 秀樹