高血圧症の研究はこの50年非常に精力的に行われていますが、なぜ高血圧になるのかということはいまだにはっきりは分かっていません。
但しかなりのことは分っています。血圧の上昇は一つの原因だけではなく幾つかの原因がありますが、数ある原因のうちもっとも大切なのはレニン・アンジオテンシン系(R・A系)といわれるものです。
下の図で説明します。

  レニン
(a)
  アンジオテンシン変換酵素(ACE)
(b)
 
アンジオテンシノーゲン アンジオテンシンI アンジオテンシンⅡ
肝臓で作られるアンジオテンシノーゲンに腎臓で作られるレニンという酵素が作用すると(反応a)アンジオテンシンⅠという物質が作られ、これに肺から出されるアンジオテンシン変換酵素が働くと(反応b)強い昇圧物質であるアンジオテンシンⅡが作られます。アンジオテンシンⅡはさらに副腎や脳下垂体に作用して他のホルモン(アルドステロンやバゾプレシン)を産生します。この一連の反応を邪魔することができたら血圧の上昇を抑えることが可能と考えられます。高血圧の治療法は血圧が上がるであろう条件を考え出し、そこをブロックする薬剤を用いるのが常套手段です。このR・A系を含めて血圧が上昇する条件を考えてみると以下のことがありそうです。

1.R・A系の活性。
2.心臓の収縮が強いとき。
3.血管が収縮して狭いとき。
4.体に塩分・水分が多すぎるとき。
5.他の昇圧物質の作用のあるとき。
6.交感神経の作用が強いとき。

などです。

現在もっとも多く使用されている降圧剤はアンジオテンシンⅡの働きを邪魔するARBと呼ばれる薬でしょう。ディオバン・ニューロタン・ブロプレス・イルベタン・オルメテック・ミカルディスという薬があります。アンジオテンシン変換酵素(ACE)の仕事(反応b)を邪魔するACE阻害剤も効果の良い薬剤で根強い人気があります。カプトリル・レニベース・ロンゲス・タナトリルなどです。最近ようやくレニンの働き(反応a)を直接にブロックするラジレスという薬が開発され注目されています。

心臓の収縮を抑えることで血圧を下げる薬をβブロッカーと呼びます。脈拍と血圧が下がり心臓が楽をすることができます。但し喘息の患者には使えません。インデラル・テノーミン・ナディック・アプロバール・ブロクリンなどが代表選手です。

血管にはぐるりと取り巻く平滑筋があり血管を閉じたり拡げたりしています。この動きにはカルシウム(Ca)が大きい役目をしています。Ca拮抗剤と呼ばれるグループは特に毛細血管の平滑筋を緩めることで、テニスコート一面分はあると言われる毛細血管を拡げそこに血液を逃がすことでメインストリートの血圧を下げます。ノルバスク・アムロジン・アダラート・コニール・ヘルベッサー・ニバジール・カルブロックその他多数の薬品があり、ジェネリックも揃っています。

塩分の摂りすぎは血圧上昇の原因です。腎臓にはまことに見事な塩分・水分調節のメカニズムがあります。糸球体で血液を濾過したのが尿ですが、大部分は再吸収されます。この再吸収を抑え塩分と水分を体外に出すことで血圧を下げるのが降圧利尿薬です。ナトリックス・ラシックス・アルダクトンAが良く使われます。

#5、#6もありますが、最近はARBやCa拮抗剤など優れた薬剤が開発されたのであまり使われません。治療を始めて一種類の薬で血圧が下がれば有難いのですが実際は数種類の降圧剤を併用することがたびたびあります。そこで生れたのがいわゆる合剤です。ARB+Ca拮抗剤、ARB+利尿剤などいろんな組み合わせがあります。血圧はよく下がりますが、どの薬の合剤かを憶えるのが大変なのと、減量しにくいのが欠点です。カデュエット・プレミネント・コディオ・レザルタス・エクスフォージーなどの製品があります。

先に述べたようにアンジオテンシンⅡは副腎に作用し、アルドステロンを産生しますが、このアルドステロンは心臓や血管、血圧にあまり良い働きをしないことが分っています。このアルドステロンをダイレクトに抑制して血圧を下げるセララという面白い薬も利用できるようになりました。

モロキ内科
萬木 信人