胸の痛みは、右側の痛み・真ん中の痛み・左側の痛みの場合があります。痛みが心臓の痛みかそれ以外の痛みかを診断することは非常に大事なことです。

右側の場合はまず心臓の痛みを除外して構いません。心臓である可能性は5000人に1人程度です。皮膚の表面から胸の奥まで順に考えると、皮膚、皮下脂肪織、筋膜、筋肉、骨膜、肋骨、肋間神経、胸膜、肺、気管、食道、大動脈、心臓、縦隔、リンパ節などがあり、そのいずれの部位も痛みの原因になり得ます。場合によっては、胃の痛みを胸に感じることもあります。

胸が痛くて受診する患者さんの多くが、「心臓が痛い・・」と訴えますが、我々医師は上に書いた事を頭に思い浮かべながら話を聞き出しそして考えるのです。特別に検査をしなくても、話だけでおおよその見当をつけることが出来ます。何時から、どういう時に痛むのか?咳や熱もあるのか?等を尋ねます。

痛みを音で表現してもらうことは大切で、チクチクやヒリヒリ、ピリピリのときは心臓の痛みではありません。痛む範囲を手指で示してもらうことも大切です。もしも指先で「ここ」と示したら、その痛みはやはり心臓ではありません。心臓には指先で示せる狭い範囲に感じるような痛みは起きないからです。
痛みの持続時間を聞き出すことも非常に大切です。痛みが瞬間的な場合は心臓ではありません。心臓の痛みはある程度の持続があります。逆に、ずうっと痛みが続くけど意外とケロッとしている時は心筋梗塞の可能性は減ります。

急いで診断を確実につける必要があるのは、痛みに冷や汗、脂汗を伴い顔色の悪い時です。聴診と心電図と胸のレントゲンで殆んど分ります。心臓に原因があるとすれば、急性心筋梗塞、狭心症(心筋梗塞の一歩手前の)、ひどい不整脈、大動脈瘤、心筋炎、心外膜炎、ミキソーマ(心臓の腫瘍のひとつ)、弁を支える腱索の断裂などですが入院治療が必要です。最近は、知識と医療機器の進歩で、治療成績は非常に向上しています。

心臓以外の胸の痛みのうち、若い患者に多いのが、育ち盛りの胸痛です。肋骨が伸びてきて胸骨を圧迫するので痛むと考えています。恋の悩みの胸の痛みもあるかも知れません。見れば分りますが帯状疱疹(ヘルペス)も多いようです。最近はアルコールの飲みすぎや、洋食が増えているためか、逆流性食道炎のための症状を訴える患者さんも目立ちます。調べてみると食道癌ということもあります。
胸に痛みを感じるヒトはとりあえず循環器専門医に相談することをお勧めします。

モロキ内科
萬木 信人