1)アルコール依存症は、予後不良の慢性疾患ともいわれるため、先ずそれにならないよう予防することが大切です。即ち一週間に一日、酒を飲まない曜日(アルコールホリデイ)を決めてその日は酒を飲まないことを実践してみましょう。
これ程簡単容易な事はないと思われますが、なかなかそれが出来ないものです。
これが出来ない方はアルコール依存症予備群と考えられます。この時覚悟を決めて「アルコールホリデイ」を自分で設定し実践することをお勧めします。

2)アルコール依存症の診断は家族がして連れて来るケースが多くあります。肝心の本人はそれを否認する、或いはほんの初期だ、軽症だ、いつでも止められる、一日5合飲んでいても2合位しか飲んでないと言う方もいます。
その場合、治療は先ず内科医にかかり、内科的な病名で外来又は入院治療を受けることから始まります。医師も「少量なら酒を飲んでも良いでしょう」と指導します。

それでも、精神症状(幻覚、妄想)が出現する方もいます。その場合精神科へ入院し治療を行います。
アルコール依存症は「進行性の病気」のため、精神症状(幻覚、妄想)が出現する場合は重症化しています。治癒は難しいですが、快復を目指し治療を行います。

3)アルコール依存症には棚ボタ式の有効な治療はありません。「歩け歩け運動」あるのみだと断酒会員は良く言うがまさしく然りです。
アルコール依存症患者は家庭、社会から嫌われ軽蔑を受けやすい現実にあります。どこにも生存の価値、生き甲斐を見つけられないと悩む患者は多いものです。
アルコール依存症とうまく付き合うための断酒会というものがあります。
患者自身がアルコール依存症と自覚して積極的に行動する(断酒会に自分の足で歩いて行く)、個人的体験発表を聞く、自分も発表する、それを重ねていきアルコール依存症と折り合いをつけ断酒していきます。彼らはそれを「ハイヤーパワー」又は「断酒会の力」と表現しています。
断酒会には一般断酒会とAA式(米国式)、アメジストの会(女性のみ)、アルコールデイケア、認知行動療法、内観療法、DALK(薬物依存の会)等々があります。
しかし、断酒会に行き続けることができず、復合依存、Shift(症状の変異)になってしまう問題もあります。

4)依存症のShiftの問題
以前アルコール依存症として入院した患者が、今度は薬物依存症(覚醒剤、眠剤、麻薬等)で入院してしまう事例があります。又はパチンコ、ギャンブル、ショッピング依存、仕事依存症など複数の依存症を合併してしまう患者もいます。
これらは根本にある依存症は改善されておらず、表面の症状が変化しただけと考えられます。逆に病気は重症化し、予後も悪くなっている状態です。

当院は依存症の治療に最も力を入れています。アルコール依存症患者が断酒会で立ち直り、社会生活に戻るための治療です。

5)女性とアルコール依存症
昔は飲食店で働く女性がアルコール依存症になるケースが良く見られましたが、最近は若い女性から主婦(キッチンドリンカー)など色々なタイプが見られます。
また、夫の晩酌に付き合って妻のほうが早くアルコール依存症になって入院する例が多々見られます。男性が毎日4合で10年経ってアルコール依存症になるのに対し、女性はその半分(2合、5年)でアルコール依存症になると言われているからです。
時間的、量的にも男性の半分程度に抑えることを守るのが良いと思われます。
女性のアルコール依存症患者のために、女性のみで構成された断酒会(アメジストの会)もあります。

6)依存症の経過、予後について
アルコール依存症は治療を行わないと慢性疾患で予後不良の死に致る病い、恐ろしい病気です。
アルコール依存症患者の死亡率は高く、平均寿命は50歳(一般人は85歳)です。
自己破壊衝動が強く、慢性自殺者とも言われます。当院で自殺者数の統計を見ると「うつ病」をおしのけて1位にあります。その他、事故死、変死も多いです。

外国でアルコール依存症患者の多い国は「米、ロシア」と言われており、米国では依存症になり易い家族構造、人格構造が研究されています。前者では不健全な家族、主に酒害者の家族、後者ではアダルトチャイルド、共依存等が問題視され、酒に溺れ易い傾向となっていることが分かっています。


真珠園療養所
田頭 悟