熱中症は、高温多湿、無風な環境下で起こりやすく、体温上昇を制御する体温調節機序(発汗や皮膚の血流増加など)に伴う脱水、循環失調、体温調節の破綻などによる臓器障害がこの病気の主体です。Ⅰ゜Ⅱ゜Ⅲ゜(重症)に分類されています。

分類

Ⅰ゜:日射病、熱痙攣といわれるもので、日光などからの幅射熱を受け、末梢血管拡張、多量の発汗などに伴う循環血液量減少による症状が出現します。めまい、大量の発汗、筋肉痛、こむら返りなどですが、体温上昇は伴いません。

Ⅱ゜:熱疲労といわれるもので、Ⅰ゜よりやや重症で脱水、末梢血管拡張、心臓からの拍出量減少などによる循環不全を生じます。症状は頭痛、嘔吐、倦怠感、集中力や判断力の低下がみられます。

Ⅲ゜:熱射病といわれ、重症になります。深部体温が39~40℃以上の高熱となり、身体の組織障害が生じ、多臓器障害により、死亡することも少なくありません。特に意識障害、けいれん、肝臓、腎臓機能障害、血液凝固異常などのいずれか1つでも認められれば重症と診断されます。

発生状況

熱中症は、高温多湿で、日光や発熱体からの熱を受け、無風または熱風下の環境で体にかなり負担のかかる運動や作業を始めた初日におこりやすいようです。
又、乳児、高齢者、肥満者、飲酒の翌日などで下痢や脱水症状の者、睡眠不足の者、食事を抜いている者、吸熱性、保熱性のある服装の者に起こりやすいようです。

特に青壮年男性の熱射病は5から9月に、野球やマラソンなどの激しい運動、建設業などの屋外作業で多発しています。

治療方針

Ⅰ゜:日射病・熱痙攣
涼しい場所に移送し、安静にさせます。冷却不要で、むしろ保温します。
顔面蒼白、脈拍が弱ければ下肢の挙上を行います。意識があれば、水分とナトリウムの補給をします。通常は入院を必要としません。

Ⅱ゜:熱疲労
入院治療が必要となります。体温管理、安静、十分な水分とナトリウムの補給(経口摂取困難な時は経静脈的補給)を行います。

Ⅲ゜:熱射病(重度)
集中治療が必要となります。体温管理、呼吸循環管理、血液凝固異常の治療を行います。

体温管理は
①体表に近い動脈に氷嚢をあてたり、全身体表をぬるま湯で濡らし扇風機などで送風し冷却する方法。
②胃・膀胱・腹腔・胸腔洗浄等の体腔冷却法。
③冷却した輸液を静注する方法 などがあります。深部体温を38℃まで急速に冷却します。

予防

①高温多湿な環境を空調、扇風機、日よけなどで改善する。
②運動前に睡眠不足、下痢や発熱性疾患などの体調不良の確認、前日の飲酒、朝食の未摂取を防ぐ。
③日陰で休憩や水遊びをさせ、通気性の良い服装を着せ、運動前からナトリウム入りの飲料を飲ませる。
④高血圧症、心疾患、脳血管疾患、糖尿病、腎不全、甲状腺疾患、精神・神経疾患のある者、自律神経調節薬(抗うつ薬、パーキンソン病治療薬、抗不整脈薬)を内服している者には身体負荷を減らす。
などの予防が大切です。

長与病院
本多 光幸