藍生ロゴ 藍生5月 選評と鑑賞  黒田杏子


梅白し研ぎたる鎌に石映り

(兵庫県)村上 敏子

 村上さんは卒寿を迎えられた。淡路島で農業に打ち込む。白梅を詠んだ句は無数にある。しかし、研ぎ上げた鎌に石が映っているというような句は詠める人はめったに居ない。鎌を研ぐ長身の村上さんの姿が目に浮かび、涙ぐましくなった。斉藤凡太さんや村上敏子さんのような俳句作者に学ぶべきところは無限にある。四国遍路吟行を重ねていた当時、この人は山田さんご夫妻とご一緒に参加されていた。ご主人を見送られてのちもいよいよ句作に農業に全力を傾けてきておられる。この句の品格、存在感を讃えたいと思う。



夜どほしの吹雪眼を閉ぢても吹雪

(北海道)鈴木 牛後
 一転して、猛吹雪の北の大地に生きる牛飼の牛後さんの作品。五十五歳の働きざかり。説明を要しないこの一行に圧倒される。ともかく、村上さんも鈴木さんも投句用紙の文字の見事なこと。選句に打ち込む私には何よりもありがたい。近頃は、いい加減な漢字や文字の投句もふえてきている。加齢のせいにしてはいけない。選者の読み取れないようなひっせき筆蹟や、走り書き、勝手な略字・崩し字。筆圧の弱さで拡大鏡を当てても不明の文字。ともかく選者が読み取れる投句をどなたも心がけて頂きたい。



怒り忘れて過去捨てて春着縫ふ

(神奈川県)竹内きくえ
 竹内さんは八十二歳。歩き遍路も満行されたし、起伏に富んだ人生を送ってこられた。波乱万丈の越し方を自分史一環にもまとめられた。いまは鎌倉に独り棲み、「きくさんの部屋」というアトリエ兼自宅で、毎日人々に囲まれていきいきと愉しく暮らしておられる。針仕事を習いに集まるのは女性だけでなく、男性も多いとか。今が幸せ。という人生を築き上げたこの人に敬服している。


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