藍生ロゴ 藍生12月 選評と鑑賞  黒田杏子


新涼や白磁の皿に禪一字

(兵庫県)清水 詠

 なんと気持ちのよい、品のある俳句と思って作者の名を確認。清水詠さんはついに百歳となられた。すばらしいことである。投句の文字はご家族が記されていて、実に読みやすいきれいな筆跡。私が第一句集『木の椅子』で世の中にひっぱり出され、「俳句とエッセイ」牧鮮集の選者になった頃からの投稿者。「藍生」創刊と同時にご参加下さったが、ずっとお目にかかることはなかった。しかし、何年か前に、伊丹の柿衞文庫で私が講演の機会を与えられたとき、ご家族に伴われてご来場下さり、凛としたお着物姿の詠さんにお目にかかることが出来た。毎月の作品は実に立派なものである。清水詠さんのような方が同人制のない会員平等の「藍生」の二十年を支えてきて下さったのである。清水詠さんの百寿を会員の皆でお祝いしたいと思う。



骨壺に隠れて鳴ける秋の虫

(長崎県)渡部 誠一郎
 渡部さんの母堂のついに天寿を全うされたことを知る。長男として医師として治療と介護を尽くされたことは、この人の作品や文章に示されていたところである。しかし、いま室内に置く母上の骨壺のあたりに鳴く虫がある。ああ、ついに母はこの世を発ったのだと虫の音に心をあずける。優しい優しい長子の母を想う句である。



 

終戦日朝空の青やさしすぎる

(東京都)高島 秋潮
 作者はいま百歳に向かっておられる。終戦日の記憶はおそらく忘れることの出来ない激しく辛いものであった。永らえて、平成二十一年八月十五日。世の中も変わり、昭和二十年の記憶を忘れ得ない人にとっては、この日の朝空のなんとおだやかに、やさしすぎることよと思われるのだ。朝空が巧いと思う。


11月へ
1月へ
戻る戻る