藍生ロゴ 藍生5月 選評と鑑賞  黒田杏子


胸中の秘仏のごとし寒牡丹

(石川県)畳谷 智代

 寒牡丹の句として心に沁みる佳吟である。寒牡丹の美しさ・ゆたかさ・気品はさまざまに詠まれている。雪や菰や火鉢、炭火など寒牡丹のひらくその場で眼にするものとの組み合わせの句は無数にある。畳谷さんのこの句は秘仏とその花を並列に置いている。しかもその秘仏は胸中のとある。長い句歴をもつ作家である。勉強家であり、高い美意識を持つ人であることは、ずっと通いつづけてきておられる寂庵あんず句会での作品によって証明されている。畳谷さんの人生観、自然観がこの一行に結晶したのだ。敬服する。



山雀に年玉木の実ひとつかみ

(和歌山県)道上 深雪
 この句にはいささかの説明が必要だ。高野山女人堂のほとりにはお詣りの客からひまわりの種などをもらうことを常としている山雀が何羽も居る。人に慣れて、掌に乗ったり、肩にとび乗ったり、ショルダーバッグに乗ることもある。道上さんは高野山に棲む。有名な石屋の奥さまでご詠歌の大家である。その人が色あざやかな木の実をひとつかみ山雀にふるまったのだ。お年玉として。山陰石楠先生の門下で句歴も長い。こういう方が藍生に参加しておられることを心強く思う。高野山上に何人も句友がおられることのゆたかさ即ち石楠先生のお恵みなのである。



 

ピリオドを打ち凍星にひらく明日

(兵庫県)藤田 翔青
 この人はいま上げ潮に乗っている。公立の大学院博士課程にすすまれ、学業と平行して専門家として働く場所も得ている。人生のステージをゆっくりと昇りながら前進している。若き刻苦の人生を凍星が見護る。


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