藍生6月 選評と鑑賞 黒田杏子 |
うぐひすや窓をひらけば野の匂ひ (石川県)小森 邦衞 |
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こんな環境に小森さんは暮らしている。輪島市の郊外といったあたり。一日一日が大切な?漆作家のアトリエである。ご縁にご縁が重なって、数年前、私は小森家を訪問する機会に恵まれた。藤川游子・宇多喜代子・寺井谷子の四人組の輪島行。仕事場は簡素で、きちんと片付いていた。洗面所の棚に森敦『月山』その他の文芸書が重ねられてあった。懐かしかった。輪島で森先生のあの独特の語り口がよみがえってきて、小森さんへの親近感が増した。かつて研修所で机を並べておられた夫人は夫のために専業主婦となる。その人が野に摘みためて煮上げる細い細いきゃら蕗、その滋味に勝るものを私は知らない。 |
カレー煮て白菜漬けて三時の茶 (福島県)小山 京子
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「藍生」創刊の前年、私は須賀川の「牡丹焚火」俳句大会の選者として招かれ、「火の記憶」について講演もさせて頂いた。話を聴いて下さった小山さんが中心となって、創刊号からグループでご参加下さった。以来二十年、この人の印象は変らない。県の医師会長その他をつとめられ、多忙を極める夫君と家族を支えつついつまでも年を取らない。ユーモアと乾いた杼情。人情家にして情におぼれず、淡々といきいきと独自の句境を築いた。 |
梅林に兎をつれて一家族 (埼玉県)井上 英子
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何とたのしい、うらやましい一家。飼っている兎も連れて、一家で梅見にやってきたとは。梅林に放たれて、下草を食べたりしている兎の長い耳が見える。 |
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