藍生4月 選評と鑑賞 黒田杏子 |
どこも見てゐない自画像冬ざるる (神奈川県)竹内 克也 |
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この自画像を見たことがあるような心地になる。その作品を遺した画家の境涯にも想いをはせることが出来るような不思議な臨場感を湛えた一行である。しかしまた考える。どこも見ていないという眼はこの世へのかかわりを放棄したそれなのではないかとも。そんな自画像作品に心を寄せ、句に詠みあげる作者への親近感も湧いてくる。 |
クリスマス誰とでもなく父と居る (東京都)安達 潔
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作者がその父と居るのではない。父として作者はその子とクリスマスを過ごしているのだと思う。作者はその子に選ばれたのである。誰とでもなくという中七に作者の嬉しさがさりげなく、しかし明確に打ち出されている。 |
書初に母も筆持つ台所 (神奈川県)岩田 由美
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若い夫婦に元気な子供達のいるいきいきとした家庭の、その暮しの中から詠みあげられた新年詠である。母も筆持つ台所。あらたまの家にとびかう家族の弾んだ声。四十代の母である作者の、病より生還したよろこびも一行にしみとおっている佳吟である。 |
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