藍生ロゴ 藍生11月 選評と鑑賞  黒田杏子


天空の道ひらかるる盆の月

(東京都)今野 志津子

 不思議な句である。しかし魅力的な句である。天空の道ひらかるると言われて、私たちの眼とこころが天上に引きつけられてゆく。月が輝いている。その月は盆の月である。天界の人となっている父や母、その他さまざまな人の面影が作者の眼前にあらわれては消える。盆の月のかがやきはいよいよゆたかさを増し、なつかしさを強めている。



白蓮その千畳の沼の闇

(徳島県)岡村 藍
 広大な蓮田。蓮の沼。そのひろがりはいま夜の闇につつまれている。無限にひろがるその沼のところどころに白蓮が花をかかげている。夜であるから日中開いていたその花もみな軽く花弁をとじている。この作者の句であれば、阿波の鳴門の蓮田の景ではないだろうか。新しい寂庵のあるあたりの。夜の蓮田のたたずまいをこのように感じとり、詠み上げた作者に共感する。



 

病む人の眼の奥に棲む蛍の火

(石川県)畳谷 智代
 この作者の嘆きの深さに言葉を失う。病む人のこころの奥の奥まで感じとって、その人を静かに見守っている。支えている。蛍火が作者の眼の奥にあるというような句はどこにでもある。畳谷さんの研ぎすまされた感性と、病む人に対する思いやりのこころがこの蛍火を読み手にもありありと見せてくれる。


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