藍生10月 選評と鑑賞 黒田杏子 |
母憶ふやがて海月を見失う (東京都)田邉 文子 |
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こういう句のよろしさを、五年前の私はしっかり受けとめることが出来たであろうかと考えてみる。十年前は考えてみない。このごろ、私は少し以前の自分とものの考え方が大きく変わったと思うことが多い。選句によって自分を発見するという想いがある。田邉文子という作家の句として共鳴する。 |
くわんおんの湖へ一燭雲の峰 (京都府)出井 孝子
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出井さんはいまひたすらに句作に打ちこんでいる。寂庵の句会が発足して、ほどなく参加された。その日の情景を私ははっきり覚えている。句歴二十年、その人の力がいまたしかな光となって、作者自身を包み守る。 |
朝の戸に死者の音声半夏生
(埼玉県)山口 都茂女
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母と娘の絆が誰にもまして強固なものであったと想像される都茂女さんの、これは母恋いの句である。母が誘うのか、娘が母を招くのか。黙して戸口に佇つのではなく、大音声とともに訪れたという、巫女の世界を髣髴させる一行ではある。 |
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