定義

生殖年齢の男女が2年以上妊娠を希望し性生活を行っているにもかかわらず、妊娠の成立をみない状態を不妊といい、医学的治療を必要とする場合を不妊症といいます。
正常な男女では、避妊しなければ1年間でその80%、2年間で90%、3年間で93%が妊娠します。ですから、不妊の頻度は10%ということになります。
 
また、 妊娠はするけれども、流産や早産を繰り返し、生児を得られない場合は不育症といいます。2回連続して自然に流産を繰り返す場合を反復流産、3回連続しての流産は習慣流産といいます。
1回目の流産の頻度は15%前後で、2回目は2.25%、3回目は0.34%です。

分類

夫婦間で過去に1回も妊娠が成立しなかった場合を原発性不妊症、1回以上妊娠の経験がある(流産も含む)がその後妊娠しない場合を、続発性不妊症といいます。
また、不妊の原因が女性側にある場合を女性不妊症、男性側にある場合を男性不妊症といいます。
更に、不妊の原因が診断可能である場合を器質性不妊症、原因が明らかにできない場合を機能性不妊症あるいは原因不明不妊症といいます。

病因

-妊娠成立のしくみ-
排卵の頃に性行為が行われると、①射精により腟内へ放出された精子が子宮腔を通って卵管をのぼっていきます。②排卵により卵巣から卵子が飛び出ます。③その卵子を卵管が取り込み、卵管内で卵子と精子が出会います(受精)。④受精した卵子は、細胞分裂をしながら卵管内を子宮腔へ移動していき、⑤子宮壁内膜にくっつき(着床)、ここで胎児となり大きくなっていきます。ですから、不妊とは①から⑤までのどこかに障害がある場合に起きます。

不妊症の病因が女性側にあるのは40%、男性側25%、両方25%、不明10%です。女性側の病因としては、卵管通過障害、排卵障害(内分泌異常)、子宮因子、頚管因子、卵巣因子などがあります。男性側の原因としては、精子の異常(数、運動率、奇形率、受精能力)、性交障害、射精障害などがあります。

卵管通過障害を起こす原因には、クラミジアや淋病などの性感染症、子宮内膜症、腹腔内の炎症(虫垂炎、腹膜炎)による後遺症などがあります。排卵障害を起こす原因は、内分泌異常によるものと卵巣の異常によるものがありますが、多くは内分泌の異常によるものです。
内分泌の異常には、排卵をつかさどるホルモンの分泌の異常や甲状腺疾患によるものなどがありますが、多くは前者です。そしてそのなかでは、体重の急激な減少やストレスによる(間脳性)機能的障害の頻度が高いです。受精卵の着床障害や精子の頚管通過阻害による不妊もあります。
 
不育症の原因としては、子宮異常(子宮奇形、子宮筋腫、子宮腔癒着症、頚管無力症)、内分泌異常(高プロラクチン血症、甲状腺機能異常、糖尿病)、免疫異常(抗リン脂質抗体症候群、自己免疫疾患、同種免疫異常)、夫婦染色体異常などがあります。

診断(不妊症スクリーニング検査)

1)女性側の検査
卵管の通過性:
卵管通気・通水法、子宮卵管造影、クラミジア・淋菌抗原検査、腹腔鏡検査
排卵の有無:
基礎体温表、経腟超音波検査、ホルモン検査、腹腔鏡検査
子宮因子:
経腟超音波検査、子宮卵管造影、腹腔鏡検査
頚管因子:
頚管粘液検査、性交後精子通過試験、抗精子抗体検査
卵巣因子:
経腟超音波検査、ホルモン検査

子宮卵管造影検査を行った後に、卵管の通過性がよくなって妊娠することがよくあります。

2)男性側の検査
精液検査:精液量と精子の数、運動率、奇形率、受精能力
必要であれば、泌尿器科で男性器を含めて検査を受けてもらいます。

治療

不妊治療開始のタイミングは、各個人の考え方によって異なりますが、一般的には、女性が30歳以下で排卵が正常にあっていれば、1~2年間くらいは自然経過をみてもいいのではないでしょうか。31歳以上の場合は、自然経過を1年間みても妊娠しないのであれば、不妊の検査を受けた方がいいでしょう。
まず、不妊症の原因を検査し、その原因を取り除く治療を行います。

1)タイミング法
受精能力が高い時期は、精子は射精後3日間、卵子は排卵後1日間です。ですから、受精(妊娠)しやすいのは排卵3日前から排卵1日後ということになります。もちろんその前後の日でも妊娠することはあります。
排卵日は、基礎体温表、頚管粘液(量の増加と粘稠性・透明性の増大)、尿中のLHホルモン検出、経腟超音波検査による卵胞径の測定などを組み合わせることで、予測できます。基礎体温表で排卵の可能性が1番高いのは、低温相から高温相へ移行する時期、すなわちも体温が低くなった日から1~2日後の時期です。頚管粘液は、排卵日に近づくとその量が増え、粘稠になりよく伸びるようになります。
薬局で販売しているLH試薬を用いて尿中のLHホルモンを検出することで、排卵日が推測できます。この試薬が陽性を示せば、その日から翌々日までに排卵するので、性交を陽性を示した当日か翌日に行います。経腟超音波では、卵胞径が20mmくらいになったところで排卵することが多いです。

2)排卵誘発
自然に排卵が起きない婦人は、排卵誘発剤(経口または注射)を使用します。また、排卵が起きていても月経周期がかなり不規則な人は、排卵日を予測しやすくなるように、経口の排卵誘発剤の使用を考えます。

3)人工授精(AIH)
パートナーの精子を、排卵期に器具を使って人工的に子宮腔内に注入する方法です。この場合受精能力をたかめるために、培養液で洗浄濃縮した運動精子のみを集めて注入することが多いです。

4)体外受精(IVF)
卵子と精子を体外で一緒にし、自然に受精した卵を子宮に戻す方法です。

5)顕微授精
通常の体外受精では受精が難しい場合に行います。顕微鏡を用いて卵子1個に精子1個を直接注入し、人工的に受精させた卵を子宮に戻す方法です。