ヒトの血液はなぜ赤い!青い血液の生き物もいる!

怪我すると出る赤い血液、血の色の赤さは血色素(ヘモグロビン)固有の色です。
この血色素を容れる直径7~8ミクロンの円盤型透明容器が赤血球(もちろん細胞)と呼ばれ、この2つが「貧血」という病気の主役です。
生理的な役割は酸素(炭酸ガスも)の運び屋です。この他にも血液の中には、侵入する病原微生物や異物を処理して体を守る(白血球)、血液を血管から漏らさない(血小板)、栄養の運搬(タンパク、糖や脂肪など)、情報の伝達、司令(ホルモン)など、生命を維持する重要な働きをする細胞や物質が含まれます。
ところで、青い血液の生き物って!なんですか?

血液の仕事とは…血管の中を流れること

血液は血管の中を流れないと仕事になりません。流れに乗って、酸素の運び屋・赤血球は、その薄い膜を通して肺で酸素を受け取り、内部に入っている血色素がこれを大事に抱えて全身へ運びます。
帰りの便では、全身で産生された不用な炭酸ガスを、同じように血色素が抱えて、体外へ廃棄するために肺まで運びます。肺は呼吸してガス交換を行います。

貧血とは…赤血球数、血色素量が減少した状態

赤血球の数と血色素の量が種々の程度に減少した状態が貧血です。減少すると酸素や炭酸ガスの運搬能力が減退します。その結果、末梢組織への酸素供給が減少し、組織の細胞活性が減退します。細胞活性の減退は身体器官の能力低下につながります。

赤血球数と血色素量の減少程度は必ずしも比例しません。貧血の種類によって特徴的な組み合わせとなりますので、このことは貧血の診断の際に役立ちます。

ピンクから蒼白へ、色のグラデーション

種々の程度に赤血球数や血色素量が減ると、他覚的には皮膚や粘膜の色が徐々に蒼白になっていきます。判り易い部位は結膜、口唇や口腔粘膜、爪床の色などでしょう。

因みに赤血球数の正常値は、血液1立方ミリメーター中、男性410~530万個、女性380~480万個。血色素量の正常値は、血液1デシリッター中、男性13~18g、女性12~16gで、理由は明らかでありませんが、正常値において女性の方が少し低い値とされています。おおよそ10g/dl以下になると蒼白グラデーションが始まります。

誰もが知っている貧血の症状とは…“脳貧血”は似て非なるもの

よくみられる自覚症状は“立ちくらみ”“ちょっと運動したら動悸、息切れ”などが有名ですが、傍目には“何となく元気がない”“ごろごろしている”、自覚的には“体が重い、だるい”という症状の方が実際には多いようです。運動能力は明らかに低下しますので、少し細かく観察すると客観的に判りますが、貧血は当然ですが、循環器症状とよく似ています。   

「脳貧血」は脳への血液の循環、供給が減少した状態であって、赤血球や血色素の量が低下した状態とは違います。

急性(急に現れた)貧血は一大事!

何らかの原因で急に多量の出血によって血液を失ったり、特別な原因で大量の赤血球が血管内で破壊されたりすると急性貧血の状態となります。重度の場合は大変な事態となります。血液の減少による循環不全ですから医療機関へ急行しないと命にかかわります。

これに対してゆっくり進行する慢性貧血は自覚症状がはっきりせず、健診などで指摘されることが多いようです。

慢性貧血を放置している人へ

健診で貧血と診断されても、或いはすでに皮膚粘膜の色が蒼白に近い状態にまで進行していても、自覚症状が乏しい慢性貧血の人は放置している場合が多く見られます。この様な状態では心臓や肺機能が貧血の分をある程度までは代償し、脳や内臓や、手足の筋肉は低酸素に耐えているわけです。治療により貧血が治ると、人が変ったように元気で快活になります。貧血は大事です。最近の話題として、骨粗鬆症とも関係があると言われています。

いろいろな貧血と言うけれど…大部分は「鉄欠乏性貧血」

貧血にはいろいろ種類がありますが、大部分は、体内の鉄が減少ないしは欠乏して発生する鉄欠乏性貧血です。鉄は血色素の重要な原料ですから理解は容易です。

鉄欠乏性貧血以外の貧血では先天性、遺伝性の貧血もあり、また赤血球が破壊される「溶血性貧血」、骨髄内の造血異常による「骨髄異形成症候群」、「再生不良性貧血」や「白血病」などが挙げられますが、どれも難病であり、専門の医療機関でないと対応が難しい病気です。ただし、これらの難しい貧血は頻度が低いことが救いです。

鉄欠乏性貧血の説明の前に、先ず鉄の体内動態について!!

赤血球の細胞寿命は120日ですが、寿命が尽きた赤血球内の血色素鉄はリサイクルされますから、体内の鉄は簡単には不足しない仕組みです。それでも1日平均で成人男子1mg、女子2mg程度の体内鉄の喪失があります。これを食物で補うことになります。

体内鉄の総量は男子で体重1kgにつき50mg、女子は35mg。総鉄量の70%が血色素鉄、残り30%が筋肉、肝臓、骨髄の貯蔵鉄、血清鉄など。貯蔵鉄と言っても静止しているわけでなく、各々の細胞内にあって、有機的にやり取りは出来る状態にあります。血清鉄はタンパクと結合して流れ、いつでも造血に利用される準備ができています。

これに、妊娠や成長に伴う鉄需要の増加、女性の生理や病気としての出血による鉄の損失増加により、鉄の収支のバランスが崩れて鉄の不足が生じ、その不足分を先ず貯蔵鉄で補うことになりますが、貯蔵鉄の枯渇により鉄欠乏(鉄欠乏性貧血)が起こります。

鉄欠乏は原因の究明が重要!

鉄欠乏⇒血色素の産生量の減少⇒貧血(鉄欠乏性貧血と呼ばれる)となります。各々の赤血球の容積も、内容の減少で小型化します。この状態の診断は簡単な検査ですぐに判明します。

鉄欠乏性貧血は月経や妊娠、出産の関係で、その年齢層の女性に多くみられることは当然のことだろうと思われます。

病気の視点で鉄欠乏を考えてみた場合、その原因の多くは体内鉄の喪失で、その原因は出血です。少しずつ徐々に出血すると気付かないことがあります。出血の原因疾患として、痔出血や子宮筋腫による月経過多のほか、胃腸管の潰瘍もありますが、「がん」もあります。治療の前にその見極めが大事ですので、医療機関の受診が必要です。

稀であるが、怖くて難しい貧血

治療が非常に難しい貧血のことです。再生不良性貧血や白血病など造血器の病気がこの貧血に属しますので、できるだけ早い時期に骨髄検査による診断が必要です。早期診断が望ましいと分かっていても、進行は早く、貧血症状のほかに、白血球の異常に関係する発熱、血小板減少に基づく鼻出血などが見られ、傍目にも重症感があり、本人は苦しい状態となります。一刻も早く受診が必要です。

二次性貧血

関節リウマチ、腎不全、肝硬変、甲状腺機能低下症などの慢性病はほとんどの症例で種々の程度の貧血を呈し、鉄欠乏性貧血や造血器疾患と違ったそれぞれの特徴をもっています。貧血の治療も各々基礎疾患が改善しない限り困難です。これら慢性疾患が原因となる貧血を二次性貧血と呼んでいます。出血とは関係のない諸臓器の「がん」も多くの場合、進行すると二次性貧血を呈しがちとなります。貧血が先に発見され、検査の結果、「がん」やこれらの慢性病が診断されるということも少なくありません。

名前は怖いが、治る貧血

「悪性貧血」という怖い名前の貧血があります。
複雑な機序によって造血ビタミン(V-B12や葉酸)の胃での吸収が阻害され、造血の場で欠乏して起こる貧血ですが、該当するビタミンの補給により簡単に治ります。

妊婦の貧血

胎児造血のために母体の鉄需要が増大します。つまり、妊婦は妊娠が経過するほど貯蔵鉄が減少し、鉄欠乏性貧血になり易い状態となります。

赤ちゃんの貧血

稀にはサラセミアや球状赤血球症という遺伝性の厄介な貧血もありますが、一般的には、妊娠中の貧血を十分治療しなかった母親から生まれたお子さんが、母乳のみで乳児期栄養を受けた場合、1歳前後から鉄欠乏性貧血がしばしば出現します。赤ちゃんの貧血は進行した場合、活発さにも影響しますので、この時期にすぐ治療する方がよいと思われます。赤ちゃんの肌の赤みは状態を表すポイントです。

高齢者に多い貧血

高齢となると、悲しいかな!身体諸機能が低下します。造血機能も例外でなく、軽度の貧血や白血球数の低下をしばしば見かけます。慢性腎臓病や糖尿病等、慢性の病気が複数重複した場合、こうした状態に拍車がかかるようです。しかし共通した性質として、加齢による造血機能低下のみが原因の場合、貧血は軽度で、ほとんど進行は見られないことが特徴です。

高齢の男性に多い傾向がみられる「骨髄異形成症候群」という、病気の成り立ちが複雑で、診断も治療も難しい重大な貧血を呈する病気があります。貧血だけでなく、白血球や血小板の異常も同時に伴い、白血病へ移行することもあるので特別の注意を要しますが、ゆっくりではあっても必ず進行する病気ですから、この点を注目しておくべきです。

貧血がわかったら、素早く行動しよう

貧血は、高血圧や糖尿病のように長期間にわたり治療する病気ではありません。治る貧血は短期間で簡単に治りますし、治らない貧血は早く検査して、その性質を見極める必要があります。生命に係わるような病気が隠れている場合があります。いずれにせよ長い期間放置してよいものではありません。

貧血の食事療法はむつかしい…予防は食事、治療はくすり

昔から貧血の食事療法は、鉄を多く含む食物(と言えば必ずレバーを)が推奨されていましたが、これではバランスのとれた食事ではなく、偏食を勧めるようなものです。治療効果も多くは望めません。食事の工夫やサプリメント摂取は、鉄不足になりがちな妊婦や母乳栄養児を持つ母親などが貧血の予防目的で行うことに価値があります。

貧血の治療は、たとえ鉄欠乏性貧血であっても医療機関の薬を使いましょう。

検診を受けよう…貧血の診断は難しくない

一般に、医療機関での貧血診断は難しくありません。貧血の人の中には、治療が困難な貧血や悪性の病気の症状としての貧血が稀ながら含まれ、これらは早期発見が肝心です。その第一歩は貧血の発見にありますので、健診受診を心がけましょう。

こが内科外科クリニック
古賀 庸之