人工関節とは?

人工関節とは、加齢のために関節が変形したり、ケガなどで関節が傷ついたりして、日常生活に重度の支障をきたすようになった時に、手術を行います。人工関節は、人工的に設計、作成された主に金属を使用した関節を、変形や傷ついたりした関節と入れ替えることを意味します。そのために、通常、全身麻酔下に《人工関節置換術》が行われています。

人工関節の歴史 

1950年~1960年代に欧米の整形外科医らが、研究を重ねながら人体に応用する試みが盛んになりました。その中でも、1962年Charnley(チャンレイ)によって、金属とポリエチレンの組み合わせの魔物少ない人工股関節が開発され、人体に臨床応用されました。その結果は、非常に優れたもので、これを契機に人工関節は世界中に普及していきました。

人工関節の耐久性

前述したように人工関節の臨床応用が成功してからすでに、50年が経過しています。
初期のころには、年月とともに金属の部分が磨り減ったり、骨とつないだ部分が緩んだり、細菌などにより感染してしまうなどが原因で、人工関節の耐用年数は10年~15年とされていました。
しかし、研究開発がさらに進み、最近は耐久性に優れた材質が使用され、ゆるみが少ないデザインの製品が開発されたことにより、その耐久性は、飛躍的にアップしています。
現在使用されている人工関節の耐久性は、患者さんの全身状態などにも影響を受けますが、15年~20年以上の耐久性があるといわれています。
近年、改良を重ねてきた人工関節の製品を使用して、経験豊富な医師が正確な手術を行えば、患者さんの年齢によっては、人工関節でほぼ一生使用することも可能になってきたといえるでしょう。

人工関節の部位

現在最も多く行われている人工関節の部位は股関節、膝関節です。これらの部位は、加齢により変形したり、ケガで傷ついたりして、重度の機能障害が発生することが多いからです。
その他にも症例は限られますが、肩関節、肘関節、指関節、足関節などの人工関節も実用化されています。

人工関節はどのようなときに手術を受けるのか?

人工関節置換術の適応となるのは、患者さんの日常生活のスタイルによっても異なりますし、患者さんの全身状態によっても違いがありますが、一般的には以下のような場合に手術が考慮されます。

○ 関節の痛みが強く、ちょっとした仕事や趣味、観光などの行楽に支障をきたしたり、日常生活における通常の動作などが制限される場合。

○ 関節の痛みが、いわゆる保存的な治療方法(薬物療法や理学療法、運動量の制限や安静にしたりなど)を行っても、一向に改善せず、日常生活上においてかなりの支障をきたしている場合。

○ 画像検査(CT,MRI,レントゲン検査など)において、関節炎やほかの病気が認められたり、その所見が進行していた場合などに、手術が望ましいと判断される場合。

○ 関節の動かせる範囲が大きく制限されており、日常生活において大きな支障をきたしている場合。

人工関節手術の効果

人工関節手術は、はじめは「関節の痛みを取り除く」ことが主な目的でした。しかし、近年の手術技術の向上や製品の改良などにより、痛みをとることだけでなく、より良い生活の質を獲得することも可能になってきました。
手術を受ける患者さんの状態によって、多少の差はありますが、現在では、人工関節の手術を行うことによって以下のような効果が期待されます。

○ 関節の痛みを取り除く、もしくは大きく痛みを和らげること。
○ 関節の変形を矯正し、痛みを取り除くことで、本来の関節の動きを取り戻す環境を作れること。
○ 関節の痛みのために制限されていた日常生活での活動性をアップさせ、生活の質を高めること。
○ 関節の痛みのために、ほかの関節に与えていた影響をすくなくして、ほかの関節への障害を減少させること。
○ 手術後のリハビリにより、関節の動かせる範囲(可動域)が向上したり、筋力がアップすることにより、活動性が高まり全身状態にも良い影響を与えることが可能。

つまり、人工関節手術によって、〔関節の痛みをとる〕という時代から、近年では《生活の質を高める》、そしてさらには、運動能力が回復することで、骨粗しょう症や糖尿病などの病気の改善にもつながることなどが期待されるようになっています。

最後に、人工関節手術は、特殊な場合を除いて決して急ぐ手術、緊急性を要する手術ではありません。また、稀ですが手術の合併症も発生することがあります。手術を担当する医師とよく相談し、十分な理解が得られた上で、手術を受けるようにしてください。
また、納得がいかない点などがあった時には、そのままにせず、別の病院の医師の意見(セカンドオピニオン)なども参考にして、いつ、どこで、どの医師にどんな手術をしてもらうのか十分検討していただくことが重要だと思います。


吉田整形外科クリニック
吉田 伍一