明 は 心 地 よ さ に こ だ わ っ て

照明デザイナー 末次冨美子

 

「あの時代の雰囲気をよく表す、モダンですばらしいデザイン」と総合プロデューサーの橋本健治さんも絶賛する公会堂の照明器具。外灯は戦争に取られ、大ホールのシャンデリアはまったく別のものに取り替えられていた。今回の工事では、すべて創建当時のとおりに復原されることとなり、ヤマギワ株式会社が請け、担当になったのが同社計画デザインセンターチーフデザイナーの末次冨美子さんである。

 

当時の明るさと陰翳にこだわってデザイン起こし

末次さんは復原工事当初から調査をスタート。実に六年をかけた仕事だ。調査に入った頃の資料は手書き。「当時はまだパソコンなんて使ってなかったので(笑)」。

創建当時から残っていた器具は一三種。洗浄したり、磨きをかけたり、ビーズなどの部品を交換して、当時の輝きを復刻させていった。

時代と用途に合わせ、照度(明るさを測る尺度)も変わっている。地下会議室など一部を除き、蛍光灯は使わず、当初の柔らかい光に戻した。

新規製作品は大集会室のシャンデリア、ペンダント、外のポール灯、特別室のブラケット(壁に取り付けられている照明器具)など二七種。復原調査のノウハウは、会社にも末次さんにもあったが、今回の資料は建築物と古い白黒写真のみ。照明器具は空間に対するバランスが大切なので、まず実際の建築物の寸法から、失われた器具の具体的な寸法を割り出していく。次に、装飾デザインのディテイルの復原。「写真をなんども拡大して、凹凸感をもとに追っていきました。なんとなくこのあたりに光があたってるなあとか、ここらへんに何か丸い飾りのようなものがあるんじゃないか、などと推測しておおまかにデザインを起こします」。それでも分からない部分は、公会堂や図書館、北浜界隈の同時代の建築物を参考にした。

 

素材や塗装法もできる限り再現

調査はデザインだけではない。素材や塗装法も創建当初に使われていたもの、手法を解明し、できる限りそのとおり再現することにこだわった。

素材は、当時の特徴的な材料である銅や真鍮が多用されていた。現在主流であるスチールよりも柔らかく、抜き型の加工がしやすい。しかし今では柔らかすぎて強度に問題があったり、コストがかかりすぎる。全部を当時そのままに再現することは不可能だったが、装飾など部分的に生かした。

塗装法も、「煮色着色」という手法がとられていることがわかった。染料の入った釜に素材を漬けて染める方法だが、現在は行われていない。しかし、釜を保存している職人を探し出し、その釜に入る大きさのブラケットなどは当時の手法で再現した。

デザイン画ができたら、凹凸感を再現するため原寸の粘土モデルを作成する。「ここらへんが大変で(笑)。ここまでは私の独断ですすめていますが、初めて諸先生方に見ていただくわけです。イメージが違うとか、厚さ感が違うといった意見がいろいろ出てきて、何度も何度もやり直しです」。

粘土モデルが完成したら、社内の設計担当者が設計図に起こし、外部業者に製作を依頼。すべての器具の納品が完了したのは、二〇〇二年の八月だった。

 

「大阪出身なのでうれしかったですよ」

新規復原で最も苦労したのは、最後に取りかかった建物外部のポール灯だ。復原前にあったものは、スケール感がずいぶん違うのだが、元の外灯についての資料はほとんどない。「全部新たに立ち上げなくてはならなかったので、二〇〇一年の年明けから半年間はほとんどこれにかかりきり、最初の四カ月間は会社に寝泊りしてました」。

会社での末次さんの主な仕事は、既製品を使って空間の照明計画を作ること。「修復・復原は何度かやってますが、ここまでの規模はなかなかないです。公会堂で使われている装飾模様は草花をモチーフにしたものが多く、今では考えられないような細かく手の込んだデザインでした。今回の仕事をやりながら、決して新しいものだけがいいわけではなく、古いものを残していく大切さがものすごくわかりました」。

「大阪出身なので、この話がきたときはやっぱりうれしかったですよ、小学校のとき写生した思い出もありますし。それに記念碑的な建物だし、建築設計の橋本さんが情熱的に取り組んでおられる姿を目にしていましたので、ちょっとでも気をぬくと失礼にあたると思い、細かい作業、段取りも時間を惜しまずにやりました」

できあがったあとも何度も訪れたが、大きすぎたとか明るすぎたなどの違和感は、この仕事ではまったくないそうだ。「反省する点がないわけではないですが、実験を重ねるうちに空間とか光の感じを完全に把握していたし、やれることはやりつくしました」。

「これから実際に公会堂を使う方々が、光の分量が心地よいなといったことを感じてもらって、なんとなく細かいデザインなどにも目をやっていただけたらうれしいなと思います」

 

すえつぐ・ふみこ

1966年大阪生まれ。1986年にデザイン専門学校を卒業後、

インテリアデザイナーを経て、ヤマギワ株式会社入社。現在、計画デザインセンターで、照明計画照明器具設計に従事。

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