法律バラエティ番組を斬る!!

最近、テレビで法律問題をテーマにしたバラエティ番組が放映されるようになり、かなりの視聴率を集めている。『行列のできる法律事務所』、『ザ・ジャッジ』などがそれである。コメンテーターにも弁護士など専門家をそろえ、視聴者は現実の法廷を見ているような気分になってくる。

法律事務所に相談に来る人の中にも「テレビ番組で慰謝料が取れると聞いた」などと言ってくる人がいるため、視聴者にかなり影響を広げていることは間違いない。

しかし、この種の番組で「正解」とされている解答には、実際に裁判に臨む弁護士の目から見て首をかしげるようなものもある。例えば、次のような事例はどうだろうか。

 

ケース@ 姑のおせっかいは罪になるのか?          

 「行列のできる法律相談所」〇二年一二月一日放送分

    再現映像

念願の二世帯住宅を建てた専業主婦・美子とその夫。一階に夫の両親、二階に美子夫妻が住み、玄関も別々。

ある日、美子が帰宅すると玄関が開いており、しかも部屋が荒らされていた。さらに財布の中身がなくなっていた。

姑に連絡すると、自分がやったと言う。美子夫妻の家に新聞の集金が来たので、合い鍵を使って入り、その上家計簿まで勝手にチェックしていた。姑は親切心からと言うし、夫は姑をかばう。

「用があるとき以外、無断で互いの家に入るのはなしにすること」という取り決めをし、互いのプライバシーを大切にしようと話していたのに。

姑の行動はエスカレートし、寝室に脱ぎ散らかしてあった美子の衣類を片づけて、「美子さんって結構派手な下着を付けているわね」と指摘。さらに、下着を衣服の上から試着もしたらしい。

決定的な事件が発生する。姑が、今の若い人は何でもすぐに捨てると言って差し出してきた袋の中には、美子がゴミとして捨てた夫や美子の下着を縫ってぞうきんにしたものが入っていた。姑はよかれと思ってやっているが、美子は我慢の限界に達している。

 

●ポイントの整理

・姑は勝手に美子の家に入り財布からお金を払った

・姑は無断で美子の家の掃除までしていた

・姑は美子の家のゴミを勝手にリサイクルした

・二世帯住宅とはいえ無断で家には入らないように初めに約束している

 

●弁護士の回答

北村:罪にならない

夫は奥さんの愚痴に対して「なんだよ,その位許してやれよ」と言っている。しかも合い鍵も渡している。

住田:罪にならない

これらいずれも日常生活のささいな行き違いで、モラル違反とも言い難いし、ましてや犯罪には全くならない。

久保田:罪になる

合い鍵というのはいつ入ってもいいという意味ではない。非常に重要な緊急の用がある場合入ってもいいという取り決めだったはず。少なくとも掃除については急にやらなければならない話しではなかった。

善意で入ったからどうかというのは直接の要件ではない。これは住居侵入にあたる。

丸山:罪になる

(久保田弁護士が)全部言っちゃったから言うことない。法律というのは非情なものです。厳密に言うと住居侵入。余程のことがないと他人の住居に干渉しないというのが二世帯住宅のメリット。

 

●結論

罪になる可能性は四〇%。家族と言えども無断で家に入ると罪になることがあるのでご注意。

 

弁護士が依頼者から刑事事件にできないかという相談を受けた際、まず意識することは「警察が動いてくれるか」、「起訴に持ち込めるか」ということである。この事件で警察が動くことはまず考えられない。せいぜい「家族でもっとよく話しあいなさい」と説得して家に帰すぐらいがおちである。警察は、それでなくても忙しいので、捜査してもどうせ起訴に持ち込めないような事件に力を入れたくないし、個人間の争いごとを刑事事件にして一方の当事者に利用されるのを一番きらう。こんな事件は警察にとっては「民事の争い」、「家族の間のもめごと」にしか写らないだろうから、真剣に捜査に乗りだすことは考えられない。

警察がなかなか動かない場合、弁護士を代理人に立てて正式に告訴するという方法もある。しかし警察は、このような告訴状を正式に受理せず、「事実上預かる」ということをよくやる。「もう少し裏付けとなる証拠を持ってきてもらわないと動けない」などと言ってしばらく時間を置き、「進展がないなら取り下げてもらえませんか」などと告訴の取り下げを迫ってくる。

この件で嫁は姑が勝手に自室に侵入したことの証拠をどのようにして提供するのだろうか。ビデオでも撮っていない限り不可能である。住居侵入などは現行犯でない限り検挙は相当に難しい。このように考えてくると、この事件で住居侵入罪が成立するかどうかを議論することは、ほとんど意味がない。

しかも、この事件には、妻と姑の間に板挟みになっている夫がいる。妻が姑を告訴するということは、夫にとっては自分の母親が犯罪者になることだから、夫がこの告訴に賛成するはずがない。あえて強行すれば、今度は夫と妻の関係がおかしくなる。夫と離婚する覚悟でもない限り、実際上告訴することなど無理に決まっている。

もともと嫁と姑の問題というのは、それだから難しいのであり、今回のような事件が起こった場合、現実の解決策としては、刑事事件にすることではなく、せいぜい別居でもするしか手はない。

 

ケースA 他店の落ちた分の売上を払わなければならないのか  「行列のできる法律相談所」〇二年一二月一日放送分

●再現映像

舞台は学生街の「あかつき食堂」。塩沢ハルと夫の辰男が三〇年間続けてきた食堂である。学生達は子どもがいない二人にとって自分の子ども同然。ある日突然辰男が倒れ、脳梗塞により死去してしまった。ハルは生きる希望を失ってしまった。働く気にもなれず、食堂も閉店した。

ある日、ハルに訪問者があった。保険会社の人間で、ハルに五、〇〇〇万円の生命保険金が支払われるという。辰男がハルに内緒でかけていたのだ。

翌日、ハルがあかつき食堂を開店。辰男が生前、学生たちのためにもっと安くしてやりたいと望んでいたので、ハルは定食が二〇〇円という信じられないほどの安さに値下げ。その結果、行列のできる超人気食堂になった。

ある日突然、学生街で飲食店を営む人々が多数押し掛けてきた。「おかげで大赤字だ」「安くしすぎだ」「こちらは道楽ではない、生活でやっているんだ」と怒鳴られる。あかつき食堂のせいで周りの店の売り上げが激減したのだ。

学生達は当然あかつき食堂の味方なのだが。

 

●ポイントの整理

・ハルが値下げしたのは学生達に喜んでもらうため

・そのせいでハルの店以外の飲食店は売上が激減

・ハルには五、〇〇〇万円の生命保険金があり生活費の心配がなかった

・あかつき食堂の価格設定は原価よりも安く店はわずかながら赤字

 

●弁護士の回答

北村:払わない。

不当廉売を違法とした趣旨は、競争者が倒れてその後で独占的に大きな利益を得ることができるということを禁止することにある。今回のケースでは、他の事業者が倒れるかもしれないが、それはアンラッキーということにすぎない。法の趣旨は、他の事業者を保護することではなく消費者保護にある。それゆえ今回の件では全く問題ない。

丸山:払わない。

これぐらい許してやればいいじゃないですか。お母さん(ハル)があと何十年もやるわけじゃないんだから。一人でこんだけやって、五年もやればクタクタですよ。その五年間ぐらい善意でやらせてあげてね。みんなが喜んでどこが悪いの。

住田:払う。

今回の場合は自由競争というよりももう価格破壊している。善意から始まった一種の営業妨害。週に一回とか学生割引といった節度があればいいが。

久保田:払う。

独占禁止法の「不当廉売」すなわち原価割れするような安い価格では売ってはならないという規定がある。それゆえ払わなければならないのが原則。

 

●結論

独占禁止法違反で他店の落ちた分の売上を払う可能性は五〇%。

 

大幅な値下げをしたため、他店の売上げが落ちたことが独占禁止法の「不当廉売」にあたるかが問題となっている。

独占禁止法の目的は、市場に大きな支配力を有する企業が競争者を市場から締め出すような行為を防止することにある。この点、夫婦二人で細々と経営している「あかつき食堂」にそのような市場への影響力があるとは常識的に考えられない。仮に商店街の他の飲食店の売上げが落ちたとしても、それはその店の提供する料理やサービスの質によるものかもしれないし、顧客のニーズの変化によるものかもしれないし、不景気の影響かもしれない。「あかつき食堂」の値下げが他の飲食店の売上げ低下に結びつくおそれを証明するのは相当難しい。

現実の裁判で一番難しいのは、フィクションの上に成り立った法律論ではなくその基礎になっている事実を「証明」することである。証明できない事実は裁判では事実とはみなされない。裁判所は、当事者は自分の有利なようにうそをつくものだと思っているので、商店街の皆が証人に立って、「あかつき食堂のせいで売上げが落ちた」との言い分を、そのまま信用するかどうか疑問である。逆に商店街一同が「あかつき食堂」に対し値下げをしないよう圧力をかけたとすれば、この方がよほど独占禁止法違反になる可能性が高い。

そうすると、「あかつき食堂」の値下げが独占禁止法違反になる可能性は「五〇%」というのは、どう見ても妥当な結論とは思えない。

ケースB こんなときいくら?―欠陥住宅                         「ザ・ジャッジ」〇二年一一月二九日放送分

●事案の概要

念願のマイホーム建設を地元の工務店に依頼。契約から一年で完成。土地代三五〇〇万円、建築費二五〇〇万円。ところが出来上がった住宅は、扉がちゃんと開かない、二階の足音がひびく、壁にひび、新築三か月で雨漏り。住むうちに壁のひびは増え大きくなっていく。

工務店に理由を聞いても、言葉を濁すだけ。建築士に建物を検査してもらった結果、ひび等の原因は基礎工事の手抜きであることが判明。割栗石を省略したり、不良木材を使用したりしていた。

検査してくれた建築士からは安全性のことを思うと今すぐに建て直すべきであると言われた。しかし工務店は開き直る。「予算に見合ったものを作ったまでだ」

@建て替え費用二五〇〇万円と、A慰謝料を請求したいが……。

 

●猪狩弁護士の答え

@請負契約 民六三四条に基づく請求…二五〇〇万円を請求することができる。

A生命身体の危険にまで及ぶ瑕疵を生じさせられ、しかも夢のマイホーム実現という特別の思い(家族四人の思い)を裏切られ大きなショックを受けたから、一〇六万円(顧問弁護団の総意)請求できる。

 

欠陥住宅の損害賠償の問題が扱われているが、簡単に損害賠償で二五〇〇万円、慰謝料で一〇六万円取れると言っている点が気になる。

この事件の場合、住宅に欠陥があることは証明できるだろうが、裁判で難しいのは損害額の証明である。建築費が二五〇〇万円だったから建て替えるなら同じ二五〇〇万円請求できるというのは単純すぎはしないか。

現実の建築紛争はそんなに簡単ではない。

こちらの建築士が証人に立って建て替えが必要だと証言してくれても、建築業者の側は建て替えまでは必要なく補修で対応できると言って別の建築士を証人に立ててくる場合が普通だ。どちらの言い分が採用されるかはわからず、相当やっかいな裁判になる。

費用が二五〇〇万円であることの証明はさらに難しい。基礎に欠陥があるから全部壊さなければならないとも限らない。現在では、マンションの基礎にヒビが入っても、ジャッキアップなどの方法で基礎を補修する技術があり、補修費用については鑑定などが必要になることもある。

まして慰謝料が一〇六万円という根拠は、いまもってわからない

 

あくまでも娯楽バラエティと割り切って − 編集部の結論

法律問題を扱う番組は、他人のもめごとを題材にしている点で娯楽番組として面白いし、弁護士が出てきてわかりやすく解説してくれるので、参考になると思って見てしまう。この種の番組が出す答えは法律的に間違いとは言えないし、バラエティとして楽しむ分には良い。

しかし、中にはこの答えが自分に起きた現実の問題を解決する方法だと思っている人が結構いるのには驚く。現実に起きる紛争は、肝心の争点の部分について事実であっても証明できないことが多いし、裁判を起こしたくても事情があって断念しなければならない場合もある。裁判の勝ち負け以外に相手方の支払能力ということも考えなければならない。ケースBの欠陥住宅の例にしても、「二五〇〇万円取れます」と言うが、裁判に勝ったからと言って二五〇〇万円を実際に回収するのは簡単なことではない。欠陥住。宅を作った建築業者が倒産してしまえば終わりだし、倒産しなくても裁判に負けた方は差押えなどを受けないように財産を隠すのが通常のケース。隠し財産を発見できなければ、判決をもらっても紙切れに過ぎない。

テレビ番組の結論はこのような現実の紛争解決の難しさを一切切り捨てて「理屈で言えばこうなる」と言っているだけだから、現実の問題解決とはほど遠く、あくまでもバラエティと割り切るべきである。

 

『行列のできる法律相談所』

日本テレビ系で毎週日曜日夜9時より放送。視聴者から寄せられたあらゆるトラブルについて、4人の番組レギュラー弁護士がそれぞれの見解を述べる。司会は島田紳助。毎回、板東英二や磯野貴理子などのゲストが7名ほど出演。

 

『ザ・ジャッジ』フジテレビ系で毎週金曜日夜7時57分より放送。男女トラブル・マネートラブル等、日常生活の中に潜んでいる身近なトラブルを、顧問弁護団が法的根拠に基づいて『ジャッジ』する。司会はみのもんた。レギュラーに爆笑問題。ゲストパネラーとして美輪明宏や森公美子らが出演。

 

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