藍生ロゴ 藍生3月 選評と鑑賞  黒田杏子


白寿まで生きたる尼僧冬銀河

(京都府)清水 憲一
 寂聴さんは実に大勢の人々によって詠まれています。これまで著名な方々に寄せられた悼句の数とは比べものにならない感じです。「藍生集」にも大勢の会員の方々から句が寄せられています。清水さんは京都洛南高校の先生でした。「現代俳句協会青年部」部長の黒岩徳将さん達が俳句甲子園で活躍されましたが、彼らの育ての親でもあります。いつか「藍生」の会員となられ、長らく「あんず句会」にも参加されました。この句には甘さがありません。瀬戸内寂聴という人物の生涯を冷静にかつおおらかに見つめておられます。過不足のない一行に学ぶところが大いにあります。洛南高校では卒業式に「世の雑巾になれ」という言葉を学生達に贈るそうです。



逝く秋のうち伏す草に消えし蝶

(神奈川県)岩田 由美
 この句に出合って、涙ぐましくなりました。この蝶は幸せですね。ここまで見つめてくれた俳人という人間がおられて。写生とかいうものを超えた句ですね。とても感心した句です。ずっと心に残る句だと思います。



石蕗の花寂信さんと寂聴さん

(愛知県)三島 広志
 このおふたりの名前が詠み込まれた句を私はこれまで知りませんでした。寂信さんそして寂聴さん。私たちはそれぞれにお二方にご縁を賜りました。とりわけ私は深く長くお世話になり、ありがたいことでした。この大先達おふたりの名前の上に石蕗の花が置かれた。これは三島広志さんという藍生の代表的な作家の人間性、人生観の反映です。寂聴先生の長逝に対して贈られる句としてすばらしい。そう思います。心があたたかくなってくる。そんな句ですね。


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