藍生ロゴ 藍生2月 選評と鑑賞  黒田杏子


母の聴く黄落の音ただ激し

(京都府)植田 珠實
 これぞ植田珠實一代の作品。大変に感動致しました。母は高蘭子さん。歌誌「山の辺」主宰。九月三日に倒れられた母上を珠實さんは懸命に看とられ、副主宰としての仕事もつつがなくつとめられた様子が掲載された雑誌を頂きました。娘として母を護る。これは日本中に無数に居られる女性の暮らし。歌人であり、俳人である私達の仲間、珠實さんがこの句を「藍生」に投じられ、「あんず句会」スタート時以来のメンバーであり、故新田久子さんの無二の親友であった蘭子さんの今が俳句作品として結晶していることに深い感動を覚えました。



天心に寂光の月流人墓

(広島県)大出 豊子
 大出さん九十六歳。実に見事な美しく筆圧の強いご投句。瀬戸内海の因島にお住まい。これまでにもこの方の句は何度も選評させて頂いております。今月の四句を皆さま、どうぞじっくりとごらん下さい。このように詩情ゆたかにして、格調の高い堂々たる作品を詠まれ、毎月「藍生集」に投ぜられる大先達が居られることをよろこびたいと思います。



神在の水の光を供へけり

(島根県)柳楽 圭子
 神在という言葉は出雲の方でないと使えないですね。句を作ることは勿論自由ですが、実感が出ないでしょう。神在の水の光。なんとすばらしい言葉。柳楽さんのよろこび、感動が詠み手の私達にもたっぷりと伝わってきます。余分な事は何も言わなくてよい。季語の只中に生きている人の一行ですね。


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